【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています

伝わる熱、交わらない想い

 ソワソワと、リーゼはもう何度見上げたか分からないベッドの天蓋をまた見上げて、それからため息を吐いた。
 視線を落とすと、目に入るのは首から足首までぴっちりガードしてある、分厚い木綿の寝衣。
 お世辞にも扇状的とはいえない鉄壁の防御力を誇る己の姿に、リーゼは頭を抱えたくなった。
 
(あー!なんで私ったら、もっと大人っぽい下着を買っておかなかったのよー!)

 世の中には男性を誘惑するための、非常に布面積の少ない下着もあるという。
 リーゼ単体では華やかさの欠片もないのだから、そういう小道具に頼るべきだったかもしれない。今更遅いけれど。

 というか、そもそもそんなモノの出番が来るなんて思っていなかった。
 不意にこの後のことが頭を生々しくよぎって、リーゼは落ち着かなくなる鼓動を宥めすかすように胸を撫でた。

(一体どういう風の吹き回しなの……?)

 ランドルフは、今までリーゼに全くと言っていいほど興味を示していなかったと思う。なのに一体どうして?

(でも、意味なんてないのかも)
 
 彼の言葉の裏に潜む理由を探したくなる一方で、冷静な自分がそう自嘲していた。

 ただ溜まった欲を発散したいだけ。そう考えると、ランドルフの突然の誘いも腑に落ちる。
 
 名ばかりとはいえ、リーゼはランドルフの妻だ。欲望を晴らす相手としてこれ以上適切な相手はいない。これは本の受け売りだが、男という生き物は心が伴わなくとも女を抱けるというし。
 
 変に昂揚していた心が音を立てて萎んでいく。

(別にわかっていたことだわ……)

 シュンとした矢先にノックの音が聞こえてきて、リーゼはビクリと身体を震わせた。
 扉が軋む音と同時に、ランドルフが寝室に入ってくる。途端に、リーゼの心臓が大きな音を立てて脈打った。
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