【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「いや……やめないで……大丈夫、だから……」

 次なんて、あるかもわからない。それなら今、この痛みに耐えてでも彼のものになりたかった。
 何度も首を横に振りながら懇願していると、ジッとこちらを見下ろすランドルフの双眸に気が付いた。
 眉間に皺を寄せ、視線には飢えた獣のような獰猛さが帯びている。

「わかった。もうやめてやれない」

 そのまま吸い寄せられるように距離が近づき、唇が重なり合った。
 舌を絡めていると、自然と体の力も抜けていた。いつの間にか体の中は彼で埋め尽くされていた。苦しい、けれども嬉しい。

(熱い……)

 体を揺さぶられながら、全身で彼の体温を強く感じた。
 宙に放り投げられるような鮮烈な快感に見舞われ、リーゼは縋るように彼の首筋に顔を埋める。
 その瞬間、リーゼは泣き出したくなる衝動に駆られた。

(こんなに近くにいるのに……私は、愛されてるわけじゃない……)

 最初からわかっていたつもりだった。だが彼の熱に全身で触れて、リーゼの心は欲しがりになっていた。

 ずっと好きだった人に抱かれて嬉しいはずなのに、心が通じていないことがひどく悲しい。
 
 決して告げることのない、胸に秘めた想いが眦からこぼれ落ち、リーゼの頬を濡らした。視界が黒く暗転し、リーゼの意識は身に余る恋情と共に深い暗闇に堕ちていった。
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