【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
無自覚の激情
エルドラシア王国王立第二騎士団の団長執務室には、常に厳かな空気が漂う。
木々を揺らす初秋の爽やかな風も、この部屋に入り込んだ瞬間凍てついた冷気を纏うようだった。
この部屋の主であるランドルフ・フォスターは、重厚なマホガニーの執務机に向かい、しかつめ顔で黙々と書類に判を押していた。
彼の顔に愛想が欠片も浮かんでいないのはいつものことだが、今日はいつにも増して発する覇気が刺々しい。
それゆえ今日この執務室には誰も訪ねてこなかったのだが、その静寂を破るように扉がノックされた。
ランドルフがおもむろに面を上げる。
返事をする前に扉が開き、入ってきたのは第四騎士団長のジョシュア・ヘンドリックだった。
騎士というよりは戦士と言った方が似合う筋骨隆々としたその男は、大きな体躯でこの部屋の張り詰めた空気を破ると、我が物顔で執務室に置かれたソファへ腰掛けた。ギシッと木の軋む音がして、ランドルフは露骨に顔をしかめる。
「入っていいとは言っていない」
「うるせーな。そう固いことを言うな」
ランドルフがギロリと睨みをきかすが、この男は気にするそぶりもない。どこ吹く風といった様子でソファの背もたれに腕を乗せ、脚を伸ばして寛いでいる。
全くもって度し難い。
この男がランドルフに対して遠慮知らずなのは昔からだ。
互いの家のの領地が近いこともあって、幼い頃からそれなりに親交があった。
ジョシュアはランドルフよりも四歳年上だ。それもあってか鬱陶しいほどにランドルフを弟扱いしてくる。
ランドルフが彼を兄貴分と認識したことは一度もない。そして幼馴染だからといって無作法を許すわけでもない。