【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 沸々と苛立ちを募らせるランドルフの胸の裡を知ってか知らずか、ジョシュアは呑気に執務室を見回している。

「リーゼちゃんはいないのか?」
「……人の妻を気安く呼ぶな」

 さして関わりもないくせに馴れ馴れしくリーゼを名前で呼ぶジョシュアに、ランドルフは額に青筋を立てた。

「おお、怖っ……」

 ジョシュアはわざとらしく肩を震わせ、怯えたように自身を抱きしめる素振りをした。大男がやると気色悪いことこの上ない。演技だとわかるからなおさら。
 
「お前、女嫌いを言って憚らなかったくせに、いつからそんな狭量になったんだよ。で、リーゼちゃんは?」
「…………今日は休みだ」

 忘れようとしていた嫌な現実を蒸し返され、ランドルフの口から舌打ちが飛び出した。

 別に彼女が休む事自体が問題ではない。休むタイミングが問題だった。
 
 以前はリーゼもランドルフと同じ日に休みを取っていた。上司と同じ日に休む方が業務効率がいいという理由で。

 だがこの頃、リーゼはランドルフと別の日に休みを取得するようになった。一度彼女にそれとなく理由を訊ねてみたが、「用事があって」と当たり障りのない答えが返ってくるだけだった。

 リーゼが休みをずらし始めたのは、あの日――二週間ほど前に彼女を初めて抱いてからだ。
 あの夜以来、彼女はろくに自分と目を合わせようとしない。会話も必要最低限。
 共に過ごす時間が長くなるにつれて徐々に綻んでいた彼女の表情も、再び部下の仮面を被って隙を見せなくなっていた。
< 88 / 170 >

この作品をシェア

pagetop