【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
　避けられているんだろう。
　その事実が、ここ最近のランドルフを妙に苛立たせていた。
　
　ムッツリと唇を引き結ぶと、ジョシュアがこれみよがしにため息をついた。

「ランドルフ。お前、ただでさえ顔が怖いんだから、そういう人一人殺せそうな目で俺を睨むのはやめろ」
「……今すぐ叩き出してやろうか」
「ははーん、さてはリーゼちゃんと上手くいってないんだろ」
「は？」

　ランドルフの口から、地響きを起こしそうなほど凄みのある声が飛び出す。だがジョシュアは構わず話を続けた。

「いくら金のためとはいえ、結婚は結婚だもんなぁ。こんな朴念仁相手じゃリーゼちゃんも大変だろうに」

　芝居がかったようにやれやれと肩をすくめるジョシュアの仕草は、ランドルフの神経を十二分に逆撫でした。
　今すぐこの男を切って捨てたい衝動に駆られる。

（だから言いたくなかったんだ……）

　そもそも契約結婚の件は、誰にも告げるつもりなどなかった。同じ屋敷に暮らすマーティンとエイダには、夫婦の実態がないことを隠すことが難しいため事情を告げたが、それだけで留めておくつもりだったのだ。

　だが、この男が「いきなり結婚するなんて一体何があったんだ？！」と、それはもうしつこく詰め寄るものだから、うんざりして事情を話してしまったのだ。
　根負けして白状したことを、今はムシャクシャするほど後悔している。

　加えて、目下の患いごとも言い当てられ、ランドルフの苛立ちは胸を食い破って狂った猛獣のごとく暴れ出しそうになっていた。
　衝動を抑えるべく、ランドルフはギリギリと歯を食い縛った。眼差しだけは鋭く、ジョシュアを射殺すべく睥睨する。
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