言の葉は
目覚めると泣いていた。
幾いくつもの連つらなる記憶の中で、僕はあの当時の幸せな記憶を無意識むいしきに選んで、いつもそう、夢による幸福の再現さいげんをループしている。
涙を拭うと、僕の日常はいつも通りの繰り返しだった。
起き上がって、窓辺の綻ほころぶ明かりを解とき放はなつ。カーテンを広げると朝陽あさひが僕の姿に影を落とすと同時に温もりを与えてくれる。
この日々、傷つき、膿うんでいく心はどこへ向かうだろう。
行き場のないこの心の言の葉ことのははどこへ気持ちを伝えるのだろう。
洗面所で鏡と向き合いながら歯を磨みがく。丁寧ていねいに磨いて、真水で洗い流した後、顔を洗う。そして、真新しいタオルで顔を拭ぬぐう。やはり冬のこの季節は顔を洗うのは苦行くぎょうだ。
そのままの流れでいつも通りに自室で制服に着替えて、ネクタイを結び、ブレザー姿になり、リビングへと向かう。
「おはよう、遥斗くん」
義理ぎりの姉の暦こよみが僕の姿を見るとパッと花が咲いたような明るい表情を浮かべる。僕は暦に対して、「おはよう」と無理に笑顔を繕つくろうと叔母おばさんにも「おはよう」と言い、食卓しょくたくについた。