言の葉は
暦が叔母さんと小さなコントをしている間に僕は食事を終えて、「ごちそうさま」と手を合わせる。

叔母さんは僕の顔を覗き見て、これも毎回だが、「美味しかった?」と聞いてくる。

もちろん、僕は「うん、美味しかったよ」とまた無理に微笑みを繕う。すると叔母さんは心底しんそこ嬉しいという風ふうに顔を綻ばせる。



暦は黒と灰色の小さな縞模様しまもようのスーツを整え、バッグを持って、「んじゃ、私は行って来るね、遥斗くん」と僕の肩に手を置いて、玄関に向かう。

その去り際に「あ、ついでにお母さんも!」と暦が言うと、叔母さんは「私は雑誌の付録ふろくか何かかい!」と、言い返す。



もはや、朝から僕は何を見せられているのだろう。


と───立ち上がると「僕も行ってくるね、叔母さん」と言ったところで、テレビのアナウンサーが皆既日食かいきにっしょくと皆既月食かいきげっしょくの2度の奇跡が起きると、特集とくしゅうを組んでいて、僕の足は一瞬の一間ひとま、立ち止まる。


コメンテーターの話が挟はさまれ、「これは日本古来こらいによる奇跡きせきが起きるわけですから──」と、力説りきせつしている話を食い入るように見る。


完全に僕の時間は止まり、なぜだかそれが重要なことに思えた。



ポン。


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