言の葉は
僕の止まった時間を動かしたのは叔母さんの両手だった。僕の両肩に手を置いて、「学校、頑張ってね。遥斗くん」と言われ、叔母さんは僕の頭を撫なでた。



僕は我に帰り、玄関でスニーカーを履はいて「行って来ます」とまた無理な笑顔を繕い、見送る叔母さんに手を振ふった。




微笑ましい叔母さんの姿が玄関扉を閉めて、見えなくなると僕は吐息といきをつく。



これまで作ってきた表情がまるで色を無くしたように、そこに影が色を落とし、くすんだ気持ちにさせる。


もう、ひょっとしたら心は腐くさっているのかもしれない。


玄関前で立ち止まる僕は眩まぶしすぎる太陽の陽射しを浴びて、この後、歩を進めて学校へと向かわなければならない。


でも、それを考えたら怖くて一歩を踏み出せない。


僕は重い足取りで下を向きながら歩いた。



学校へ行くと何が僕を待っているのか───



それを考えたら身体全身からだぜんしんが拒否反応きょひはんのうを起こしてしまい、とにかく怖くて、手に汗が出て、僕の身体を包つつみ込こむような粘着質ねんちゃくしつにも似た嘲笑ちょうしょうと暴力ぼうりょくが待っている。


だから、いつも、玄関扉げんかんとびらを締めると一時ひとときの間あいだは立ち止まってしまう。


その時の僕の記憶の中には不安や畏おそれがあり、毎日、鮮明せんめいに映し出される嘲笑と暴力の光景は変わることなく、現実で行われ、それをいつどこで思い出そうとも、僕は毎日の学校での記憶に拘束こうそくされて苦しくて、辛くて、逃げたくて、そしてまた、どうせならこの瞬間に消えたいとさえ思う。


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