愛し愛され、狂い焦がれる。
「やだ、仁…こんなところで…」
「大丈夫。誰も来ないさ…」
…………。
残念。
私が来ました。
総務部の書類などが保管されている倉庫。
探し物をする為にやってきたのだが…扉を開けたところでそんな会話が聞こえて来た。
…ていうか。
仕事中に何をしているの、この2人。
「…取り込み中にごめんなさいね。探し物させてね」
「…は? 梨緒!?」
「気安く呼ばないで」
部屋に入ると、書棚の前に座り込んで抱き締め合っている仁と兼森さんの2人が視界に入った。
「お前…何しに来た…」
「何って、ここ倉庫よ? 書類を探しに来たしかないじゃない」
目的の書棚に向かい、探し物をする。
2人は抱き締め合ったまま、私を見ていた。
「ねぇ、仁。安永さんに見せつけよ?」
「えっ…」
兼森さん主導でキスをし始めた。
「ちょ、玲香…」
元カレと浮気女のキスシーン。
……私は一体、何を見せられているのか…。
「…兼森さん。どういうつもりか知らないけれど。別に仁のこと何も思っていないから。見せつけても無駄よ。私には何一つ響かない」
…多分。
振られてそのままだったら。
この状況は耐え難く、逃げ出していたと思う。
けれど、私には中井先生の存在があるから。
…もう、大丈夫。
仁に対して、本当に何も思わない。
「何よ、振られたからって強がって!!」
「強がっていないよ。…因みに兼森さん。その人、反省文書かされたの知ってる? 車で1時間半の場所に私を置いて帰るし、胸ぐらは掴むし、挙句に殴ろうとした。…本性はそういう人だから、気を付けて」
「おい梨緒!! いらないこと言ってんじゃねぇよ!!!」
いらないことではなく、事実を言ったまでだ。
仁があの様子だと、その話を兼森さんは知らないんだろうね。
「……じゃ、ということで。お邪魔しました〜」
探していた書類が見つかり、私は2人を横目に倉庫から出た。
…本当に、馬鹿馬鹿しい。
あそこで抱き合っている光景、私以外の誰かに見つかれば良いのに。