愛し愛され、狂い焦がれる。
仁と付き合っていた頃の採用活動は、至って普通で、相手先でもどこでも感じの良い好青年と言うことで好評だったのに。
今はその面影が1つもない。
学校の先生相手にそんなことを言う人では無かったのだが…。
そんな仁を変えたのは、私なのか。兼森さんなのか。…それとも、隠されていた仁の本性なのか。
今の私には、もう何も分からない。
「大体、何もかも梨緒のせいだろ。お前が俺をキレさせるのが悪い」
「…仮にそうだとしても、今言うことでは無いよ」
「……んだと…」
小声だから。
目の前にいる中井先生には聞こえていないとでも思っていたのだろう。
しかしそんなはずも無く。
仁が言った言葉は、全て中井先生に届いていた。
「……」
中井先生の表情が変わる。
スっと真顔になり、仁を睨み付けながら口を開いた。
「君さ、元カレか何だか知らないけれど。安永に対するその態度は、何?」
「…は?」
「ずっと、君の態度が気になっているんだけど」
睨み合う、元彼氏と今の彼氏。
挨拶回りとは何だったのか…。
何のために高校に来たのか…最早分からなくなっていた。
「中井先生…だっけ? それ俺に聞いて、どうすんの? ていうか、梨緒のこと知ってんの?」
「…知っているも何も…」
中井先生はそう呟いて、私の前に来た。
そして、そっと腕を掴み…優しく抱き寄せる。
「こういうことだけど」
「…え?」
「気が付かなかった? ショッピングモールで安永が待ち合わせしていた相手も、僕だったんだけど」
仁の方を見た後、私と顔を向かい合わせ、唇を重ねる。
腰に腕を回し、私の体を支えながら、何度も何度もキスをした。
「せ……先生」
「…どういうこと…?」
「理解できないなら、もう少し見る?」
椅子に座った先生。
そんな先生の膝の上に私は座らされる。
「お望みなら、いくらでも見せてあげるよ」
顔をそっと掴まれ、今度は優しく舌を絡めた。
卒業生とは言え、学校でこんなことをするなんて。
何だか悪いことをしている気がして…いつも以上に心拍数が上がる。
「梨緒、どうしたの。いつもより激しいけど…興奮している?」
「…先生、学校ですから…」
とか言いつつ。
先生の言う通り。
この非現実な状況に、私は酷く興奮していた。
「…まぁ、良いんじゃないかな。こんなこと、もう二度と無いから」
そんな先生も、興奮していたのだろう。
再び唇を重ね、何度も舌を絡める。
先生の唇はどんどん下に降り、私の頬、顎、首など、あちこちを甘噛みしながら舐めた。
さっき先生がこの部屋の鍵を閉めていたのが気になったのだけれども。
多分、これの為だったのかな。
中井先生は最初から、この流れに持っていくつもりだったのかもしれない。
「梨緒、可愛い。目が潤んでいる」
優しく頭を撫でてくれる先生。
仕事中な上に、仁がこちらを見ていることなど…そんなことはもう頭の中から消え去っていた。
「…ね、元カレくん。君がどういう理由で振ったのか、僕は知らないけれど。ありがとうね。梨緒と再会できたのも、こうやって付き合えているのも、君のお陰だ」
「ただ、別れた後も梨緒に酷く当たり、暴力を振るおうとするのは違う。仕事中の公私混同も激しいし、気を付けた方が良いと思うよ?」
今の中井先生も、完全に公私混同だけれども…。
そう思ったが、それを口に出す前に、また唇を塞がれる。
「可愛いね、梨緒。狂おしいほど好き。本当に、心の底から愛してる」
何度か唇を重ねた後、中井先生はチラッと仁の方を見た。
濡れてしっとりしている唇を軽く親指で拭う。
その仕草がまた刺激的で、心臓が跳ねた。
「………で、元カレくん。まだ見たい?」
「も…もういい!」
仁は顔を真っ赤にして首を振り、立ち上がる。
「俺、帰る」
「…は!?」
そして扉の鍵を開けて、飛び出すように仁は進路指導室を出て行った。
「え、嘘でしょ!?」
また置いていかれるの!?
「ちょっと待って!」
仁を追って私も扉に向かおうとするも、その動きは中井先生に封じられる。
「良いよ、追わなくて…」
中井先生は進路指導室の扉を閉め、また鍵を掛けた。
「次の授業も空きだから。僕が送る」
「そんな…」
「良いの、梨緒」
私の腰に腕を回し、優しいキスを繰り返す。
熱いその唇の動きに、体が蕩ける感覚がした。