愛し愛され、狂い焦がれる。

会社まで私を送ってくれた中井先生。
敷地に入ると、玄関の前で向かい合って立っている上司と仁の姿が目に入った。

「上司と話をしてくる」

そう言って車を降りた先生。
私も急いで後を追い合流する。


「この度はうちの安永をお送り頂き、誠にありがとうございました。そして、本当に申し訳ございませんでした」

仁はずっと俯いており、上司は何度も何度も、先生に向かって頭を下げていた。

「安永さんを送るのは全然構いません。問題はそちらの男性の方ですよ」
「仰る通りです。貞尾につきましては、これまでの愚行を確認しており、本来なら採用担当から外さなければならなかったところでした。しかし恥ずかしながら、代わりの担当がいないのも現状でして…貞尾を継続させた次第であります」

冷静そうに仁の方を見る先生。
しかし、その目には怒りが込められているように見える。

「以前の就職フェアの時、僕も現地に行っておりました。沢山の高校生や企業の方が居る前で、安永さんの胸ぐらを掴み、拳を振り上げておりました。それを阻止したのも、僕です。…それもあるので、現状御社への信頼は底辺です」

「ただ…」

「それ以上に、安永さんは頑張っていらっしゃいました」


…え?


「本日も、安永さんから誠意のある謝罪と挨拶を賜りました。御社は信頼なりませんが、安永さんに免じて…御社からの求人票は今後も受け付けたく思います」


…待って、先生。
私、今日何もしていない。


あまりにも驚いて、言葉を発しようとした。
しかし先生は軽く首を振って、私を阻止する。


「…そんな…」


上司はその場に土下座をした。
想像を絶する光景に、思わず眩暈がする。


「本当に…本当に申し訳ございませんでした…」


静まり返った屋外。
上司が謝罪する声だけが、ただただ響いていた。

< 24 / 26 >

この作品をシェア

pagetop