愛し愛され、狂い焦がれる。
「…安永」
「中井先生」
いつもの河川敷。
入り口の付近で、立っている中井先生に抱きついた。
手を繋いで、空いているベンチに向かう。
今日も河川敷では、沢山のカップルが逢瀬を重ねていた。
「先生、色々ありがとうございました」
「別に…僕は何もしていないよ」
体をぴったりとくっつけてベンチに座った。
腕を介して伝わる先生の体温が、心地良く感じる。
「ところで…いつまでそう呼ぶの?」
「え?」
「先生って」
「…」
私の顔を下から覗き込むように見ながら、ニヤッと笑っている先生。
その表情に、心臓が跳ねる。
「先生は、先生だから」
「でも、もう8年だよ?」
「それでも、先生は先生なの!」
わざとらしく頬を膨らませて、先生の腕に抱きつく。
先生は噴き出すように笑いながら、優しく私を抱き締めた。
「ねぇ、梨緒。1回だけ、名前呼んで?」
「…え」
「聞きたい」
唐突な先生の一言。
その言葉に全身の血が駆け巡り、体が熱くなる。
「…えっと…」
「もしかして、名前を知らない?」
「そんなこと無いです!! 知っています!!」
先生の顔を見て、小さく深呼吸…。
そして、呟くように…
「誠司…さん」
先生の名前を、口にした。
「…ありがとう、梨緒」
見たことのないくらい笑顔の先生。
お互いに顔を寄せ、唇を重ねた。
偶然の再会で、8年越しに手に入れた中井先生。
そんな先生のことが、愛おしくて、恋しくて、狂おしいほど好きで、思い焦がれる。
もう、先生の元から離れない…。
そんな強い思いを胸に、先生の体を強く…強く抱き締めた。
愛し愛され、狂い焦がれる。 終