愛し愛され、狂い焦がれる。

結局、2時間待機したが、成果ゼロ。
パンフレットは1枚も渡すこと無く終わってしまった。

なんて上司に報告すれば良いんだろう…。

そんなこと考えながら駐車場に向かって歩いていると、急に仁は足を止めた。

「…お前のせいだ。成果が無かったのはお前のせいだって上司に言ってやる」
「違うでしょ。貴方がずっとそんな態度だからでしょ。せっかく近寄ってきてくれた高校生も、怖がって逃げて行ったじゃない」
「…俺のせいだと言いたいのか?」

仁は手に持っていた荷物をその場に落として、横に居た私の胸ぐら掴んだ。

「梨緒は所詮そういう奴だよな。本当、玲香を見習えよ。見た目も中身も、お前の方が劣っている」
「……あ、そう…」

こんな人に、あんな女と比べて評価されるなんて癪だ。

「兼森さん。私より頭悪そうだけどね。ああいう人が好きなんだね」
「…なんだと、玲香のこと悪く言うなら痛い目に合わせるぞ」

右手で私の胸ぐらを掴んだまま、仁は左で拳を握って振りかぶった。

…なんだ、本性は暴力男だったのか。

関係が深くなる前に見抜けて良かった。
そう思いながら全身に力を込めると、仁の手の動きは誰かによって封じられた。

「……あ?」
「…痴話喧嘩なのか、何か知らないけれど。ここでは、あまりにも人目に付きすぎる」
「…誰だ、オッサン」
「別に、誰でも良いじゃないの」
「意味分かんねぇよ…」

仁は思い切り腕を振り解く。
そして突然現れたその人をキリッと睨んだ後、私の方に視線を向けた。

「…お前、自力で帰れや」
「………は?」

それだけを言い残して走って車に向かった。

「え、ちょっと」

仁は1人でさっさと車に乗り込んで、速攻駐車場から出て行った。

「…………嘘でしょ…」

ここから会社まで、車で1時間半。
帰ろうにも、電車もそんなに本数が無い。

「いやいやいやいや。マジで有り得ないんだけど…」

思わず頭を抱えて座り込む。
ヤバい、涙まで滲んで来た。…どうしよう。



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