愛し愛され、狂い焦がれる。
「…あ、そろそろ時間だ」
中井先生は、自分の学校の生徒が集まって来たことを確認すると、足早にそちらへ戻って行った。
生徒の中に混ざる中井先生。
懐かしい母校の制服…。
自分もかつて、そこにいたことを思い出して、少し胸が苦しくなった。
「……っと、じゃなくて!」
急いでスマホを取り出し、上司に電話を掛ける。
仁が帰るよりも先に事情を説明しなければ。
緊張する…。
酷く叱責されるかと思ったが、上司のその言葉は想像の遥か上を行った。
『……分かったよ、安永さん。事情は良く分かった。…いや、実はここだけの話。最近わしらも、貞尾くんの態度や仕事ぶりには疑念を抱いていたところなんだ。…まさか、就職フェアで成果ゼロな上に安永さんを置いて帰るなんて。今後のことを考えておく』
自分で言うのもなんだけど。
これは、人徳の差…だと思った。
上司は意外と良く見ている。
総務部室での仁。
社会人として毅然とした態度をしているように見えるけれど、やっぱり根っこにある本当の姿というのは隠せずに滲み出ていることがある。
総務部に来た時から、そんな様子はたまに見受けられた。
それが気になるという人が、社内には少なからずいた。
「…さて…」
定時までに戻れないことも承諾して貰った。
歩いて駅に向かい、そこから電車に揺られ帰る。
…仁。
公私混同も良いところ。
本当に、最低だし。
私…絶対に許さない。