愛し愛され、狂い焦がれる。
残務を簡単に片付けて、総務部室を出る。
…本当に酷い1日だった。
仁のせいで。
今後、あの人とどう関わって行くのが正解か…。
そんなこと考えていると、ふと思い出した。
そういえば。
中井先生の名刺…。
無事に帰ったら連絡を頂戴と言っていた。
「………忘れてた」
車に乗り込み、電話番号を入力する。
そして…少し緊張をしながら発信ボタンを押した。
「……」
その電話は、3コール目で繋がった。
『…はい』
「あ、中井先生…安永です」
『おぉ…安永か…。やっと掛かってきた…』
電話越しに大きな溜息が聞こえて来た。
そして、安心したかのような声色で言葉を継ぐ。
『心配した。…無事、帰れたか?』
「はい、お陰様で。今日は本当にありがとうございました」
『僕は何もしていないよ』
久しぶりの中井先生。
電話越しに話すのは初めてだけど、雑談をしていたあの日々を思い出させる。
『……さっきはゆっくり話せなかった。安永…元気にしているか』
「はい、先生…。元気ですよ…」
『……お前今、嘘ついただろ』
「…え?」
『そういうとこ、本当に変わっていない』
そう言いながら笑う先生の笑い方も、昔から変わっていない。
ふと涙が、零れた。
昔の私を知っている人。
たったそれだけで、恐ろしいくらい心が震える。
『…安永、少し会えるか?』
「え?」
『久しぶりの再会だ。お前と、話したい』
「……はい」
『じゃあ…学校の近くにある川の河川敷。そこの入り口で待っているから』
「分かりました」
淡く、懐かしい青春。
商業研究に奮闘したあの頃の…続きなのか。
言葉では表現できない感情で、胸がいっぱいだ。