桜吹雪が綺麗です。
(付き合わないで、後腐れなくて、得するのって自分だけじゃないの?)

 何なのそれ。
 入社以来の友情のようなもの、信頼、彼の結婚に協力的に動いたこと、全部突き崩すようなこと、どうして。

「私はいや……。そういうのは嫌っ」

 なんとか言ったものの、暴れる気力が失われていた。
 こんな自分勝手なひと、何を言ってもわからないんじゃないかと絶望したせいかもしれない。
 抵抗の力が弱まったのを、三木沢には実に都合よく解釈されてしまう。

「お互い大人なんだ。一回だけなら楽しんで終わりだよ」

 千花が、関係に踏み込むのを迷っていると信じて疑っていない言い草だ。
 侮られていると気づいて、千花は即座に言い返す。

「自分はそれでいいかもしれないけどっ。奥さんと子どもは絶対許さないよ? そ、それに私の彼氏だってそんなのびっくりだよっ。一回だけとかそういう問題じゃなくて」

「彼氏、いたっけ」

 ひどい。

 言葉が通じていない。
 なんで。

(これって、襲われてるよね、私。強姦とか強制性交って、ものすごく抵抗したことを証明しないと成り立たないんじゃなかったっけ。ものすごくってどのくらい? 怪我させてもいいの? そしたら私の方が過剰防衛とか言われない……!?)

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