桜吹雪が綺麗です。
「ごめん。三木沢くんは、今日はこのまま帰って。『何もなかった』ことにしておくけど、『合意がなかった』ことだけはハッキリ言っておく。柿崎くんのボイスレコーダーは、必要があれば使わせてもらう。それこそ会社の他の子に手を出すようなら、上にも報告する。けど……気の迷いだったなら、早く家に帰って。そっちの家庭がいまどういう状況かは知らないけど、私は壊したいとは思っていないし、関わりたくもない。だから、このまま帰るなら、いったん全部忘れる」

 ただし、この後柿崎に交渉してボイスレコーダーの記録は写させてもらうつもりだが。

(常習犯の可能性は、考えてなかったけど、あり得るよね。他に被害者がいないかは、どうにかして確認した方が良さそう)

 さすがに分の悪さを感じたのか、三木沢は「わ、わかった」と言いながら踵を返した。
 しかし思い直したように「誰にも言うなよ」と釘を刺すのは忘れず。
 千花は思わず、変な笑みを浮かべてしまった。
 笑いたかったわけじゃない。
 下手に真面目に返して、根に持たれたらいやだという思いが強かったせいで、笑ってしまったのだ。

(あれだけ嫌な思いをしたのに、脅された上にこっちが笑ってごまかさないといけないなんて……理不尽)

 その一方で、彼も、なんらかのストレスの末の気の迷いだったのかもしれない、とどこかで信じたくなっている。
 大ごとにして「社会的に殺す」なんてして良いものだろうかと、悩むのも事実だった。
 自業自得とはいえ、その場合、奥さんや子どもはどうなるのだろうと。

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