桜吹雪が綺麗です。
「先生がどう思っていようと、俺にとっては先生ですよ。いつも二時間きっちり、私語もしないで勉強の話だけ。年上の綺麗なお姉さんと部屋に二人きりで、期待したのに。初回だけじゃなくて、二回目も三回目もずっと、勉強の話でおしまい。家庭教師って、思っていたのと違うんだなって。もっと……『何か悩みないの?』とか『彼女いるの?』とか、和気あいあいとすると思っていたのに……」

「そうなの? 私、どこの生徒さんのところでも同じだったと思う」

 他に女の子の生徒を二人担当していたが、接し方は柿崎と変わらない。時間を有効活用できるように、話題を振られない限り勉強以外の話はしなかった。
 柿崎は「そうでしょうね」と納得したように呟きつつ、続ける。

「あの頃の俺は、自分が人から興味を持たれるのは、普通だと思っていたんです。全然知らない、他のクラスの子に告白されることもあったし。思い上がっていたけど、正直に言えば、そういう自分のことが嫌いだったんですよ。何者でもないくせに、勘違いしている感じ。俺のせいじゃないのに、みんな持ち上げやがってって」

「そうなの?」

 思ってもみなかった告白に、千花は目を丸くして聞き返した。
 その態度に、語りすぎたと後悔したらしく柿崎は「ああ」と呻く。千花は慌てて「いいから、大丈夫、聞いているから。続けて」と促した。
 恥ずかしそうに、少しだけ顔を逸らしつつ、柿崎は話を再開した。

「同年代の中にいると、息苦しくて。その延長上というか、先生に最初に会ったときも、どうせこの人だってすぐに俺に興味を持ってくるんだって思ってた。なめてたんだ、先生のこと。それなのに、全然愛想がなくて、仕事だけ。俺、結構びっくりして、そのうち中学生なりのハニトラも考えて試してみたんだけど。最後に告白するときは、もう振られるってわかってた。でも、言わずにはいられなくて」

 ハニトラ。ハニートラップ。

< 23 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop