桜吹雪が綺麗です。
「薬指に指輪がないのは確認しているし、彼氏がいないというのも聞いてしまいました。俺は聞かれなかったので言ってませんけど、同じく言い訳が必要な相手はいません。……どうします?」

 問いかけは、きわめてニュートラル。
 千花次第。

(もう少し一緒にいたい。でも、何かあったら「一人暮らしの家に男を入れた」女が悪いことになるんじゃないかな。何かって、何? 仮に何かあっても、柿崎くんが相手なら。……彼に、私が経験がないってバレたら? 大人の女じゃないって幻滅されない? そもそも柿崎くん私に興味あるかな。不自由していなさそうだし。それは見た目で勝手に決めつけているだけか。彼女がいないっていうならいないんだろうし……)

 ぐるぐると、気持ち悪くなるほど考えた。
 形だけでも「何もしないよ」って言ってくれたら、建前になるのに、柿崎はそういう気休めを口にしない。

 この状況では、常識的に考えて「だめ」だと思うし、覚悟もない。
 それなのに、なかなか言えないのは、一緒にいたい気持ちが強すぎるせい。
 あまりにも強くて。

「人生で一度だけ……、素直に人に頼っていいなら。今、柿崎くんと一緒にいたい、です」

 判断力を一度、壊して止めた。
 素直な気持ちだけを、口にした。



< 28 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop