桜吹雪が綺麗です。

桜の小径で

 例年不人気だった花見の宴席が、今年はついに中止にとなった。

 大体にして、桜の季節は肌寒い。屋外で集うのは適していない。
 ただでさえ忙しい年度末に、時間をやりくりして場所取りだの買い出しだのをして夜桜見物に繰り出しても、「無理やり楽しんでいるふり」が否めなかった。

「そういう時代じゃないんだよ。みんなさっさと家に帰りたいんだ。桜の下でバカ騒ぎしているのを見ても、あそこの社員じゃなくて良かった、なんて思うよな」

 同僚の三木沢(みきさわ)は、千花に対してさめた口調で言ってから、「お先に」と席を立つ。
 大学を卒業し、新卒で入社してはや数年。同期の中でも、早々と結婚した三木沢には帰りを待つ家族がいる。

「まだかかりそうなのか?」
「あと少しかな。また来週」

 愛想よく返してから、早三十分。

(結構遅くなっちゃった)

 ようやくひと段落してパソコンの電源を落とす。
 ワイヤレスマウスの電源も切ってから、さて帰ろうと千花は椅子の上で伸びをした。
 そこまでは記憶がある。
 気がついたら、千花はいつしか黒い画面をぼんやりと眺めて過ごしていた。

「何も映ってないですけど。故障ですか」

 背後から声をかけられて、ハッと気づく。

「故障じゃないです、ボーッとしていただけです」

 振り返ると、サラッとした明るい茶髪に、透き通るような茶色の瞳の綺麗な顔が、眉を軽くひそめて千花を心配そうに見ていた。
 髭の剃り跡もないような滑らかな肌で、男性か女性かわからなかったが、声は男性だ。
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