桜吹雪が綺麗です。
「柿崎くん……。私、この手のことかなり奥手と言いますか。先延ばしにすると永遠に先延ばしにしちゃう」
「永遠」
「うん。自分でもびっくりするくらい思い切りが悪いから、するなら早い方がいいと思う」
「通過儀礼みたいな言い方。一回すれば、終わりってものでもないですよ?」

 あ、そうか、何回もするのか……と考えて、想像して、想像しきれずに終わった。
 経験がないというのはそういうことだった。

「私と柿崎くんがそういうことするって、現実感がない」

 思ったことが口から出てしまって、あっと思ったときには遅い。
 千花のすぐそばに手をついて、柿崎が身を乗り出して唇に唇を重ねた。

「するなら早い方がって、具体的にいつくらいを想定しています?」

 間近な位置で、真剣なまなざしで見つめられ、千花は身を引く。
 既視感。ちょうど朝もこの距離で。そのときはどちらも踏み出せなくて。
 引いている場合ではないと、柿崎の目を見返して告げる。

「……いま」

 天井が見えて、押し倒されるって本当に倒されるんだ、と思っているうちに視界が塞がれる。
 千花の身体に乗り上げながら、柿崎がキスをしてきたからだった。
 舌が唇をこじ開けて、歯列や口腔内を舐めてから舌に絡められる。

「ふっ……」

 声をもらした瞬間、再び唇を強く押し付けられて、軽く噛みつかれた。そのまま、再び何度も角度を変えて唇も内側も攻められる。
 やがて、あまりにも念入りに口腔内を蹂躙されて、全身が痺れて頭がぼうっとした頃にようやく解放された。

「本当に、いま? 何回も聞かない。これが最後の確認です。『気が変わらないうちに』先生を俺のものにしたい」

 千花は目を閉じて頷いた。

「私ね、ずっと思っていたの。誰のものでもないというのは、嫌だなって。暴力をふるわれそうになっても、自分が誰のものかわかっていれば、二人分怒れる気がするから……」

 嫌な記憶に負けないように。
 はやく、
 あなたのものになってしまいたい。

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