桜吹雪が綺麗です。
 深夜、目を覚ますと柿崎の長い腕と足が体に絡みついていた。
 少しでも身動きしようものなら、身体の深い部分にまだ彼がいるような鈍い異物感に襲われる。
 腰は痺れているし、すべてが重怠い。
 千花は身動きを諦めて、眠りに戻ろうとする。
 そのとき、柿崎の手に頬を軽く撫でられた。

「先生……」

 まだ言ってる……。

「千花ちゃんで……」

 痛いおねだりをしてみたものの、喉が痛くて声が掠れている。
 柿崎も気付いたのだろう、ベッドに肘をついて上半身を起こして、見下ろしてきた。

「千花ちゃん、起きていたんですね。喉辛そう。水持ってきます」

 今にも立ち上がって去ってしまいそうなその身体に腕を伸ばして引き倒しながら抱き寄せて、髪の毛を撫でつつ千花はぼそりと言った。

「手慣れすぎでは……」
「俺は、見た目でチャラいと思われること多いし、普段は面倒なんで否定しないですけど。別に遊んでないですよ」

 じゃあ本気の恋がいくつか。八年の間に。
 尋ねようとしたら唇を唇でふさがれる。
 指を一本一本絡めるように繋いでベッドに押し付けながら、唇をはなして耳元で囁かれた。

「初恋こじらせていたせいで、ろくな恋愛はしていません。信じるかどうかは千花ちゃん次第ですが、俺も信じてもらえるようにします」

 耳に口づけながら、ひそやかな声で続けた。

「合格発表の後、一緒に桜を見ましょうって言いたかったんです。昨日先生を見かけて、誘えるかなって外で待ってて……。またこの季節に会えて良かった。来年も桜見ましょう」

 囁き声ながらも、はっきりと告げる。
 一緒に、あの桜を、と。

 硬く引き締まった大きな体の、その胸に閉じ込められるように強く抱きしめられて、千花は幸福な気持ちのまま答えた。

 そうだね。
 次の春も二人で、一緒にね、と。

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