無自覚姫は今日も美形集団を纏わせる
家の反対側に着き、温室の窓を開ける。
当たり前だけど外からだったら鍵閉められないしね。
軽くジャンプして窓を飛び越え、悩む。
ん-・・・どうしたら真空に負担なく中に入れてあげられるかな?
「うー・・・」
と悩んでいるうちに真空は窓を飛び越えて中に入ってきてしまった。
「えぇ、なんで入ってきちゃうの・・・」
「え、あ、まだ入っちゃダメだった?ごめんね」
そう言って真空はまた外に出る。
「わ、出なくていいよ!」
「え?」
キョトン、と首をかしげるその仕草がとてつもなくかわいい。
「い、いや、俺の言い方が悪かった。えっと、どうやって入る?」
「え?どうやってって・・・。普通にこうやって・・・」
またピョンッと窓に手をついてこちらを見ながら真空がいう。
「わーあー、なんか心臓に悪いわ。玄関から入れてあげたほうがよかったかな?・・・いや、でもそうすると敷地内とはいえ1人にすることになっちゃうしなー・・・。うーん、俺が抱き上げるべきだった?でも1メートルあるし、真空がこわい思いするかもしれないよね。落とさない自信はあるけど万が一があるもんね」
「え・・・っと、氷空くん・・・?大丈夫?」
「ん-・・・使用人には言えないし、真空はきっとすごく軽いだろうけど・・・ちょっと不安だな、こわい思いなんてさせられないね。嫌われたら俺生きていけないし生きがいなんだから。いや、真空はそう簡単に人を嫌ったりしないよね。でも真空に傷の一つでも付けたら自殺する自信あるし」
「氷空くん・・・?なんか心配されてるのは伝わるけど・・・もう過去の事だから、ね・・・?」
「うーん・・・そうだね、あとは・・・」
「そ、氷空くんっ・・・」
「どんな死に方するのが一番苦しいかな?」
「も、戻ってきてっ・・・」
「真空に傷をつけたんだから一番苦しみながら死なないとね」
「氷空くん・・・!」
「っ、あ、ごめん。つい」
「気にしないで。でも・・・」
可愛らしく上目遣いで見つめてくる真空。
やば・・・これ続くと抑えられなくなりそう・・・。
でも駄目ってわかってるからある意味拷問じゃん。
「・・・簡単に死ぬとか言っちゃ駄目・・・。命は大切だし、なにより氷空くんには死んでほしくないよ・・・」
「・・・え?俺には死んでほしくないって」
「ん?だって氷空くんは大切な人だから・・・。ご両親も、Vistaのみんなも悲しんじゃう・・・」
「・・・真空も悲しんでくれるの?」
「当たり前!悲しまないわけがないでしょうっ・・・」
嬉しいような、悲しいような・・・。
だって《死んでほしくない》って思ってもらえるのは嬉しいけど、それってVistaのみんなと同じく仲間としか思ってくれてないってことでしょ?
「うん、俺も真空が死んじゃったら悲しくなって泣きすぎるかも。そのせいで死んじゃったらどうしよ?」
充分あり得る話だと心の中で大きくうなずく。
「・・・それって喜んでいいのかな?」
え?
それは・・・なんで?
もしや・・・と1つの可能性が浮かんできた。
あの世で一緒になれるから嬉しい、ってことかな──・・・って。
「私が死んだらそれくらい悲しんでくれるってことでしょう?それはそれで嬉しいから喜んだほうがいいのかな?でも氷空くんには死んでほしくない・・・」
・・・なぁーんだ、そーゆーことか。
なんか期待して損したような?
「私、部屋のお風呂もう一回入って寝るね!お休み、氷空くん。良い夢を!!」
ヒラヒラと白い手を振って階段を上り、部屋に入った真空を見送り、俺も部屋に戻る。
さて、お風呂に入って俺も寝ようかな?
もう3時半なんだけど。
まぁ、どれだけ遅く寝ても最低で7時には起きるから大丈夫か。
貰ったキーホルダーをスマホケースにつけ、満足げに息をつく。
楽しかった・・・もしかして真空、初めてのデートだったりしてくれるかな?
あ・・・そうだ、ブレスレット。
ぜったいVistaのみんなになんか言われるよね。
いいよね、その時はもうデートする関係だって言っちゃって。
証拠とかにキスしてみろとかは・・・やっちゃっていいかな?
なんて俺にとっては夢のようなこと考えながらタオルと寝着を用意して体と頭を洗ってから湯船につかる。
肩までがお湯につかり、俺はふー・・・と大きな息をついた。
リラックス、ね。
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