無自覚姫は今日も美形集団を纏わせる
『ヨル・・・好きだよ』
『・・・私も好きだよ、フキ』
お互い告白しあい、抱きしめ合う2人。
『フキ』は『ヨル』を抱きしめたまま、その肩に顔をうずめる。
そしてチュッと首筋を吸い、紅いあとができる。
ふーん・・・いーねぇ・・・。
左腕を自分の方に引き寄せて真空の首筋に顔をうずめ、キスマークを付けてみた。
「ちょ、葵厘・・・っ?・・・痛・・・っ」
「あ、ごめん、痛かった?次は痛くしないようにするね」
「つ、次・・・っ?もうしなくていいよ・・・!!」
・・・っていうか・・・と真空が困惑気味にこちらを見た。
「・・・なにしてんの・・・?」
・・・あ、今それね。
次はしなくていいって言った後になにしてんのって・・・。
やばい、なんかオモロイ・・・っ。
そのあとも抱きしめるシーンとか頭撫でるシーンとかいろいろあって、全部実践してみた。
いや、キスシーンもあったけどまだやってないよ?
映画のキスシーン、けっこう激しくて刺激的すぎるから・・・ね。
楽しい時間は最後に・・・ふふふ。
                                                                          
                                                                    
「映画面白かったね!最後なんてめっちゃ感動しちゃった~・・・」
まだ潤んでいる瞳をより一層キラキラさせ、僕を見つめる真空。
「じゃあ出よっか」
え、もう出るの?
2人きりの時間終わり?
そんな・・・ねぇ?
僕が簡単に逃がすとでも・・・?
出口に向かった真空についていき、ドアに手をかけた真空の腕を引っ張る。
「・・・っ?」
「ごめんね?さっきできなかったから・・・」
精一杯声と顔で申し訳ないという感情を出して出口から死角になるところに連れて行った。
「・・・葵厘・・・?」
なにをどう思ったのか、心配そうに顔を覗き込んでくる真空の顎をそっと掬う。
「っ、え・・・?」
戸惑っていますと言わんばかりに顎を掬われながら首を傾げる真空の顔に近づき、唇を押し付けた。
「・・・っ!」
声にならない声が真空から出て思わず口角が上がる。
「ねぇ・・・気持ちいい?」
「・・・き、りっ・・・。なに、して・・・っ」
恋人でもないような人間にキスされるのに抵抗があるのはわかる。
でもね、真空。
僕は真空のこと好きだから・・・抵抗はないの。
あるのは──喜びと独占欲だけだよ?
「んっ・・・っ、あ・・・んん・・・ふぁ」
真空の甘い唇からもれるのは唇と同じく、甘い声。
「ね・・・口開いて」
「・・・や・・・っ」
なかば強引に真空の口をこじ開け、その口腔を掻き乱した。
「葵厘っ・・・はな、れて・・・っ」
「まだ満足してないよ?それに・・・真空もまだ満足してないんじゃない?」
「そ、んなこと、はっ・・」
「ほら・・・頭じゃなくて身体がね。・・・もっとしてほしい?」
答えはなかったけど僕はキスを続け、数分後──。
抵抗がなくなり、真空を見るとくたりと僕の腕に寄りかかって意識を失っていた。
あー・・・ちょっとやりすぎた・・・かな?
ちょっと名残惜しく思いながら片手で真空を抱え、もう片手で眼鏡を付ける。
そのまま真空を横抱きにし、出口のドアを開けた。
                                                                  
「・・・あ、蒼鷺のお坊ちゃま。そちらのお方は・・・お眠りでしょうか?映画でお疲れですか?」
「あぁ、そうですね。目が疲れて寝てしまったようです。映画はとても面白かったと言っていましたよ」
「そうですか・・・!それはようございました。毛布などをお持ちいたしましょうか?」
「いや、大丈夫。車にあるから」
「ではお気をつけてお帰りください」
一番最初にあった従業員は去り際、真空の顔を覗き込んだ。
「我が主様の愛しき方に安らぎを」
これは蒼鷺グループでよく使われる、眠っている人に対する言葉。
まぁ、使っているのは蒼鷺グループの携わっている会社の人と、使われるのは蒼鷺グループに直接関係のある人だけ。
「あぁ、蒼鷺のお坊ちゃま!お帰りですね。お手の方は蒼鷺のお坊ちゃまの大切な方なのですね。お疲れのようで・・・」
「はい、疲れてしまったようです。寝ているのでこのまま連れて帰ります」
「そうですか、お気をつけてお帰りください」
そのあと、年配の女の従業員は真空を孫を見るように微笑み。
「我が主様の愛しき方に安らぎを」
男従業員と同じことを口にして去っていった。
そして映画館のエリアから出るまでに。
「我が主様の愛しき方に安らぎを」
「我が主様の愛しき方に安らぎを」
「我が主様の愛しき方に安らぎを」
・・・と10人以上の従業員に声を掛けられ、それぞれ対応してショッピングモールを出た。
あー、楽しかった。
映画は最後らへん見てないけどそれよりも真空の唇奪えたし・・・ははは。
今日はいいことばっかだな・・・。
・・・あ、そうだ。
真空の唇奪ったこと、鷹御に言ってみるか・・・?
いいな・・・そうしよう。
おもしろいことになりそうだ、・・・と。
                                                                                                                    
家に帰って真空を布団に降ろしてお茶を出しておくと、真空は数十分後に起きてすぐに帰っていった。
『お茶、ありがとね!でも今日はちょっと遠慮させてもらいます!』
と恥ずかし気に慌てて家を出て。
それは自分を解禁しようとした人間から出されたお茶を警戒したのか、熱烈なキスの事を思い出して恥ずかしくなったのか。
多分、後者だね──・・・。  
〈side 葵厘〉                                                      
< 23 / 50 >

この作品をシェア

pagetop