無自覚姫は今日も美形集団を纏わせる
『ありがとう』と『さようなら』
氷空くんと氷空くんママに引っ越しのことを話した翌日。
クラスに入るとVistaのみんなが当たり前のように笑顔で迎えてくれて、どうしようもなく泣きそうになる。
葵厘とは、あの映画を見に行ってから気まずいまま。
だって恋人でもないのにキスなんて駄目だと思うんだもん・・・。
・・・でも今日は・・・いや、今日からは前のキスはなかったことにして仲よくしよう。
だって最後くらい・・・みんなで明るく過ごしたい・・・。
「「「「真空、おはよう」」」」
氷空くんと教室に入ったとたん、みんなが一斉に挨拶してきた。
「・・・っ・・・おはよう、みんな・・・」
どうしよう・・・いつもみたいにちゃんと笑えてるかな?
・・・きっと大丈夫。
ポーカーフェイスはお母さんから小さいときから叩き込まれたんだ。
そう考えて席に着いたら、葵厘が話しかけてきた。
「・・・どうした?そんな泣きそうな顔して」
「っ・・・そんな顔・・・してる・・・っ?」
「してる」
即答だった葵厘に思い知らされる。
私のポーカーフェイスはまだ完璧じゃないんだと。
・・・そうじゃないよね。
私のみんなに対する気持ちがこんなに大きくなっていたんだと。
「みんな、ね・・・?今日の放課後、教室に残ってほしいっ・・・」
「「「「・・・え?」」」」
みんなが不思議そうに声を漏らす。
そのなかで氷空くんだけが分かっているように黙って聞いていた。
「・・・なにかあるのか?・・・真空・・・どうした?なんかあったか?」
心珠が心配そうに顔を覗き込んできた。
「・・・っ、放課後・・・っ」
「・・ん?放課後・・・?」
「放課後、全部話す・・・っ」
それまで・・・心の準備をさせて。
その思いを込めてみんなを見つめると、氷空くんが口を開いた。
「俺はもう話を聞いてる。それくらい重要なことだから・・・心の準備はしておいてほしい」
「・・・そんな重要なことなの・・・?」
琴李くんが真剣な顔で氷空くんと私を見つめ返してくる。
「うん・・・これからの、私たちの未来に関係する大切なこと」
「そっか・・・。ねぇ、1つ確認させて」
琴李くんは私のほうをみて首をかしげた。
可愛らしい仕草だけど、その瞳の奥には深刻さがある。
「・・・真空ちゃんに危険があるわけではない?」
「・・・え」
・・・もしかして私の心配してくれてる・・・?
「危険・・・ではないよ。人生としては結構緊急事態だけど・・・」
「そう・・・それならまずは安心・・・。いや、まだ安心はできないな」
「ありがとう。じゃあまた放課後に」
そういって精一杯手を振る。
「・・・葵厘・・・」
「・・・ん?」
「あの映画のコトはもう気にしてない。だから・・・仲良くしてほしい」
「・・・ん、あぁ・・・もちろんだ。あんなに強引にした俺が悪いし」
「ふふ・・・じゃああのことはなかったってことで。・・・あ、HR始まるね」
先生が入ってきて私たちは慌てて席に着いた。
「今日は休みのやついるか~?」
先生が名簿を広げ、教室を見渡す。
「隣の席が空いてたら教えてくれ」
「あ・・・、先生、鳩咲(はとざき)くんいません」
「鳩咲は・・・連絡は来てないなぁ。遅刻か?あいつの家は休むと必ず連絡が来るから休みはないかぁ・・・」
うーん・・・と悩んでいる先生は少しして顔を上げた。
「保留だな。他にはいないか?」
「先生、鴉乃(からすの)くんいません」
「あぁ、鴉乃は連絡来てるから休みだ。OK、じゃあ出席確認は終わり。じゃあ・・・」
鳩咲くんはちょっとおちゃらけたような男の子。
クラスのムードメーカーで、スポーツマンだけど頭もいいんだよ。
鴉乃くんは読書好きの静かな男の子。
クラスではトップクラスに頭がよくて、水泳がすごく得意なんだ。
・・・とまぁクラスの子のことは全部覚えてるんだけど・・・。
半年でこの子たちと別れるんだ・・・悲しいし、なによりまだやりたいことがたくさんある。
みんなでハロウィンパーティーしたい。
クリスマスにはみんなでプレゼント交換して。
お正月にはみんなで神社にお参りに行きたい。
みんなでお弁当や遊ぶものを持ってお花見に行って。
・・・みんなで、卒業したかった。
そうだ。
卒業証書をもって記念撮影をして。
おそらくSSクラスの男女・・・私とSSクラスの男の子誰かで代表になって話して。
『高校生になってもずっと忘れないでね』って。
『離れても私たちは友達なんだから』って。
泣きながら言い合って。
先生にみんなで『3年間お世話になりました!』って。
『高校生でも頑張るので応援していてください!』って。
『先生に担任してもらえてよかったです』って。
最後には・・・。
『最高の思い出ができました!!』って言いたい。
だれかと同じ高校になったら『また同じだね!』って笑い合いたいな。
そんな、ほとんどの人で当たり前のことが──中等部で2年と少し、幼稚舎から合わせて11年と少しを一緒に過ごしてきた仲間とできないんだ。
引っ越したら一生後悔することになるだろう。
でも今の私は弱いから・・・お母さんに逆らうことはできないんだ。
無力な自分に、目に涙の膜が張る。
だめだ、泣いたら・・・。
反対できなかった力のない私が泣いていい理由はない。
反対できるほど・・・私のみんなに対する気持ちは軽いものなんだっ・・・。
昨日から泣いて頭が痛い。
考えすぎてクラクラする。
そんな自分の状況に反抗できず、私は糸がプツンと切れる感覚がして椅子からバランスを崩し、椅子から落ちた。
・・・いや、落ちかけて・・・全部がスローモーションに見えた。
意識を失ったことはないけど・・・こんな感じなのかな?
「「「「「・・・真空!!!」」」」」
意識が途切れる直前、大好きなみんなの声がして・・・涙が1粒零れ落ちた。
ごめんなさい、みんな・・・。
ごめんなさい、氷空くんっ・・・。
「・・・真空!あぶない・・・っ」
大好きな匂いがした。
それと同時に抱きとめられて・・・安心して私は意識を手放した。
クラスに入るとVistaのみんなが当たり前のように笑顔で迎えてくれて、どうしようもなく泣きそうになる。
葵厘とは、あの映画を見に行ってから気まずいまま。
だって恋人でもないのにキスなんて駄目だと思うんだもん・・・。
・・・でも今日は・・・いや、今日からは前のキスはなかったことにして仲よくしよう。
だって最後くらい・・・みんなで明るく過ごしたい・・・。
「「「「真空、おはよう」」」」
氷空くんと教室に入ったとたん、みんなが一斉に挨拶してきた。
「・・・っ・・・おはよう、みんな・・・」
どうしよう・・・いつもみたいにちゃんと笑えてるかな?
・・・きっと大丈夫。
ポーカーフェイスはお母さんから小さいときから叩き込まれたんだ。
そう考えて席に着いたら、葵厘が話しかけてきた。
「・・・どうした?そんな泣きそうな顔して」
「っ・・・そんな顔・・・してる・・・っ?」
「してる」
即答だった葵厘に思い知らされる。
私のポーカーフェイスはまだ完璧じゃないんだと。
・・・そうじゃないよね。
私のみんなに対する気持ちがこんなに大きくなっていたんだと。
「みんな、ね・・・?今日の放課後、教室に残ってほしいっ・・・」
「「「「・・・え?」」」」
みんなが不思議そうに声を漏らす。
そのなかで氷空くんだけが分かっているように黙って聞いていた。
「・・・なにかあるのか?・・・真空・・・どうした?なんかあったか?」
心珠が心配そうに顔を覗き込んできた。
「・・・っ、放課後・・・っ」
「・・ん?放課後・・・?」
「放課後、全部話す・・・っ」
それまで・・・心の準備をさせて。
その思いを込めてみんなを見つめると、氷空くんが口を開いた。
「俺はもう話を聞いてる。それくらい重要なことだから・・・心の準備はしておいてほしい」
「・・・そんな重要なことなの・・・?」
琴李くんが真剣な顔で氷空くんと私を見つめ返してくる。
「うん・・・これからの、私たちの未来に関係する大切なこと」
「そっか・・・。ねぇ、1つ確認させて」
琴李くんは私のほうをみて首をかしげた。
可愛らしい仕草だけど、その瞳の奥には深刻さがある。
「・・・真空ちゃんに危険があるわけではない?」
「・・・え」
・・・もしかして私の心配してくれてる・・・?
「危険・・・ではないよ。人生としては結構緊急事態だけど・・・」
「そう・・・それならまずは安心・・・。いや、まだ安心はできないな」
「ありがとう。じゃあまた放課後に」
そういって精一杯手を振る。
「・・・葵厘・・・」
「・・・ん?」
「あの映画のコトはもう気にしてない。だから・・・仲良くしてほしい」
「・・・ん、あぁ・・・もちろんだ。あんなに強引にした俺が悪いし」
「ふふ・・・じゃああのことはなかったってことで。・・・あ、HR始まるね」
先生が入ってきて私たちは慌てて席に着いた。
「今日は休みのやついるか~?」
先生が名簿を広げ、教室を見渡す。
「隣の席が空いてたら教えてくれ」
「あ・・・、先生、鳩咲(はとざき)くんいません」
「鳩咲は・・・連絡は来てないなぁ。遅刻か?あいつの家は休むと必ず連絡が来るから休みはないかぁ・・・」
うーん・・・と悩んでいる先生は少しして顔を上げた。
「保留だな。他にはいないか?」
「先生、鴉乃(からすの)くんいません」
「あぁ、鴉乃は連絡来てるから休みだ。OK、じゃあ出席確認は終わり。じゃあ・・・」
鳩咲くんはちょっとおちゃらけたような男の子。
クラスのムードメーカーで、スポーツマンだけど頭もいいんだよ。
鴉乃くんは読書好きの静かな男の子。
クラスではトップクラスに頭がよくて、水泳がすごく得意なんだ。
・・・とまぁクラスの子のことは全部覚えてるんだけど・・・。
半年でこの子たちと別れるんだ・・・悲しいし、なによりまだやりたいことがたくさんある。
みんなでハロウィンパーティーしたい。
クリスマスにはみんなでプレゼント交換して。
お正月にはみんなで神社にお参りに行きたい。
みんなでお弁当や遊ぶものを持ってお花見に行って。
・・・みんなで、卒業したかった。
そうだ。
卒業証書をもって記念撮影をして。
おそらくSSクラスの男女・・・私とSSクラスの男の子誰かで代表になって話して。
『高校生になってもずっと忘れないでね』って。
『離れても私たちは友達なんだから』って。
泣きながら言い合って。
先生にみんなで『3年間お世話になりました!』って。
『高校生でも頑張るので応援していてください!』って。
『先生に担任してもらえてよかったです』って。
最後には・・・。
『最高の思い出ができました!!』って言いたい。
だれかと同じ高校になったら『また同じだね!』って笑い合いたいな。
そんな、ほとんどの人で当たり前のことが──中等部で2年と少し、幼稚舎から合わせて11年と少しを一緒に過ごしてきた仲間とできないんだ。
引っ越したら一生後悔することになるだろう。
でも今の私は弱いから・・・お母さんに逆らうことはできないんだ。
無力な自分に、目に涙の膜が張る。
だめだ、泣いたら・・・。
反対できなかった力のない私が泣いていい理由はない。
反対できるほど・・・私のみんなに対する気持ちは軽いものなんだっ・・・。
昨日から泣いて頭が痛い。
考えすぎてクラクラする。
そんな自分の状況に反抗できず、私は糸がプツンと切れる感覚がして椅子からバランスを崩し、椅子から落ちた。
・・・いや、落ちかけて・・・全部がスローモーションに見えた。
意識を失ったことはないけど・・・こんな感じなのかな?
「「「「「・・・真空!!!」」」」」
意識が途切れる直前、大好きなみんなの声がして・・・涙が1粒零れ落ちた。
ごめんなさい、みんな・・・。
ごめんなさい、氷空くんっ・・・。
「・・・真空!あぶない・・・っ」
大好きな匂いがした。
それと同時に抱きとめられて・・・安心して私は意識を手放した。