無自覚姫は今日も美形集団を纏わせる

いざ、鷹御宅へ!

がちゃり
「おかえりなさ~い!」
氷空くんが扉を開けたとたん、女の人の声がした。
ここは氷空くんの御家。
「氷空ちゃん、元気にしてたかしら~?・・・って女の子?!珍しいじゃな~い!」
「お、お邪魔しますっ・・・えっと、向埜鳥 真空と申します」
出てきた女の人は氷空くんにそっくりの美人さん。
「氷空くんのお姉さん、ですよねっ・・・?」
「まぁまぁまぁ・・・!私は氷空の母よ~。お世辞がうまいわね~」
「えぇっ・・・お母さん?!嘘、全然見えないっ・・・」
だって凄い美魔女だ。
お姉さんって言われるしか納得できないよっ・・・。
「氷空ちゃんのお友達~?」
「あ、はいっ・・・仲良くしてもらってます・・・!」
私と友達なんて嫌かもしれないけど・・・。
と、心の中で苦笑する。
「まだお友達なのね~」
まだ・・・?
それっていつか・・・。
・・・友達以下ななっちゃうってことっ・・・?!
悲しいよっ・・・。
「氷空ちゃんと仲良くしてくれるなんて嬉しいわ~!ぜひご両親にご挨拶を・・・」
「母さん、本音がすごく顔に出てる」
氷空くんのツッコミを聞き、お姉さん・・・もといお母さんの顔を見るとなにか企んでそうな顔をしていた。
「あ・・・その、今両親はイギリスに旅行に行っていて」
「まぁ!真空ちゃんを置いて?!」
なぜか怒ったような顔をするお母さん。
「そう、ですけど・・・」
「なんてこと・・・!こんな可愛い子、放っておくなんて信じられないわ・・・!!」
え?か、可愛い子・・・?
お、お世辞がうまい人だ・・・!
「未来の娘に何してるのかしら・・・?ねぇ真空ちゃん」
お母さんは私をじっと見つめ、ニッコリ。
「うちに住みましょう!」
そ、氷空くんの御家に・・・?
「ご両親はいつ帰ってくるのかしら?」
「あ、えっと多分・・・2か月後には戻ってくると思います・・・。そのあとすぐにフランスに行くとか言ってたので・・・親が家を空けるのは半年くらい?です」
「半年も・・・?真空ちゃんは連れて行ってもらえないの?」
「はい・・・なんかお父さんから、『たまにはお母さんを独り占めさせろ!』って感じがするんですよね」
「ふぅん、重そうなお父さんね・・・」
「私、お母さんっ子じゃないんですけどね・・・。っていうか記憶上構ってもらえたこともないし、写真にもお母さんと撮った写真はなかったんですよ」
あはは・・・と乾いた笑みが零れる。
家事をしてくれただけで、感謝しなきゃいけないのはわかってるし、感謝してる。
でも・・・一緒に遊んでほしかったし、一緒に旅行に連れて行ってもらいたかったし、一緒に写真撮ったりしたかった。
お母さんが家事以外にやってくれたのは勉強を教えるくらい。
しっかり解けてもほめてくれないし、〈解けて当たり前〉みたいな。
まぁ、でも今では本当に、解けるのが当たり前になっちゃってるんだけど。
「じゃあ真空ちゃん、半年間うちに住みましょうね!家から私服と部屋着と制服と・・・必要なものを最低限持ってきてくれるかしら?」
最低限・・・?
ってもう私がこの家に住むこと決まってるんだ・・・あはは。
「一緒に買い出しに行きましょ!女の子と買い物って夢だったのよねぇ・・・しかも未来の娘と!」
み、未来の娘って・・・。
まさか・・・、いや、それはないよね。
住まわせてもらうからそんな言い回ししてるだけ!・・・の、はず。
「真空の部屋、ちゃんとあるからね」
「えっ・・・」
どうしてだろ?
仮面とパーカーの時もそうだったけど・・・。
思わず首をかしげると。
「各部屋にベットと机と椅子と・・・ドレッサーも揃ってるんだ。もちろん水回りも」
「ええと・・・ありがとう?」
「うん、どういたしまして」
でもそこまでしてもらわなくてもな・・・。
逆に遠慮しちゃうよ。
「じゃあ早速真空ちゃんは私と一緒にお買い物ねっ」
「えっ・・・」
「いってらっしゃい。母さん、真空を無理させないでね」
氷空くんがお母さんにそう言いながら手を振ってくる。
「絶対に休憩すること、いいね、真空?」
お、お母さんみたい・・・。
「ホントは俺も行きたいけど・・・我慢するよ、女の子だけで行っておいで」
「まぁ・・・!すごい成長ねっ!氷空ちゃんが女の子を〈女の子〉って言ったの初めて見たわ~!」
「初めて・・・?」
失礼だけど氷空くんってプレイボーイっぽく見えるから優しく〈女の子〉って言ってるイメージなんだけど・・・。
「今まで・・・?女の子が嫌いでね~」
女の子が嫌い・・・?
そんな感じしないよ・・・。
「ずっと〈女〉って言ってたの~」
うわぁ・・・凄い女の子に辛辣な子が言ってるみたい・・・。
・・・でも、私は大丈夫なのかな?
頭撫でちゃったけど・・・。
「今は真空のおかげでなおってきてるのかしら~?」
「違うよ母さん」
氷空くんの言葉にショックを受ける。
まだ女の子が嫌いってこと・・・?
氷空くんモテそうなのに・・・。
「俺のこの優しさと甘さは真空限定」
「あっまいわね~!氷空ちゃんの気持ちを知らなかったら吐いちゃいそう~」
は、吐いちゃいそう・・・?
「氷空くんのお母さん、気持ち悪いんですか?大丈夫ですか?お出かけはやっぱり・・・」
「あぁ、そうじゃないのよ~たとえよたとえ」
「たとえ・・・?あ、そういうことですね!わかりました!」
「じゃあお出かけ行きましょう!」
お母さんの声で私たちは家を出た。
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