ヨルの殺人庭園

一日目:帰ってきた日常

 ばちっ、と意識が戻ってくる。気がつけば私は自分の家の前に立っていた。心臓が嫌に煩い。スマートフォンを確認すれば、夕方の七時。少し遅いくらいだ。
 さっきの光景は何だったのだろう──何か信じられないものを目にした気がした。とにかく元の世界に戻ってきたのだ。
 鍵を開けて入れば、夜ご飯の良い匂いがした。けれど、食べる気にはなれない。気味の悪い空間に、気味の悪い声の男女に、気味の悪いゲーム──そして、ミカン先輩の死体。そのどれもが、事実だった? いや、悪いほうに考えるのは止めよう。やけに現実味を帯びた何かだったと、そう考えることにしよう。
 とりあえず自分の部屋に戻って、スマートフォンを手にした。ミカン先輩に連絡をとろうとして、妙なことに気がつく。
 ……ミカン先輩のアカウントが、無い?
 普段連絡する用のアカウントも無ければ、SNSのアカウントも無い。そんなアカウントは存在しない、と表示されるだけだ。
 手先が冷たくなる。まさか、ミカン先輩が消えた?
 そうしていると、いつもの三人のグループに連絡が来た。リリカとウヅキが何かを話している。

──テスト範囲ってどこだっけ?

 そんな当たり障りの無い話だった。リリカがすぐに写真を送っていて、ウヅキは、ありがとう、と返信をしている。
 そのやりとりを見て、私は胸を撫で下ろした。嗚呼、愛おしい日常だ。さきほどまでの不安がそっと消えていく感覚がする。あれはただの変な夢。あまりにも疲れすぎていて見た嫌な幻覚だ。
 そう思うと、不思議と眠気がやってきた。本当はテスト勉強をしたかったけれど、体が疲れて重たい。今日は眠ろう。布団に抱き締められて、あっという間に眠りに就いた。
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