ももちゃんとUMA

忘れられない一日

「路上飲み最高! 日本に生まれて良かったわー」

 背が高く見た目の派手な女の泥酔者が叫んでいる様子はかなりの迫力があった。

「日本に生まれて良かったね!」

 キラキラの笑顔で肯定するももちゃんは正直姉の言葉の意味が分かっていない。なんというか、幸せでいいね、というつもりで言っただけである。

「国外退去させてやりたい」

 その後ろを少し距離を取りながらついていく有誠は鬼の形相で歯軋りした。関は有誠がそんな状況の時に、いいなあ、大人のお姉さん、などと思っていた。

「ねえもも、これ飲んでみる? スミノフおいしーよー」
「お姉ちゃん、お酒は駄目だって」
「いいからいいから。あ、でも、ちょっと待ってね」

 さくらはスミノフの蓋を握りしめると、すっと後ろを振り返る。そしてその蓋を振りかぶって、投げた。

 夕日を浴びてきらめきながら飛んできた蓋を、有誠は額に直撃する寸前でキャッチした。

「……危ないな」

 有誠の右の手のひらが赤くなっている。

 さくらは「チッ、おしいな」などと冗談っぽく言いながら近づいてきた。

「あっ! ユーマ! 関くんも!」

 こちらに気づいたももちゃんが嬉しそうに手を振ってくれる。関がわー、と手を振りかえす傍で、有誠とさくらは殺し合いが始まりそうな雰囲気を醸し出している。そこだけで体感気温が五度は違っているだろう。

「妙なことをするな。ももちゃんの前だぞ」
「いいねーその顔。ももに見せてやりたいわぁ」

 さくらは関に気がつくと、今度は関に絡み出した。

「おっ、ユーマの友達〜? かわいいじゃん」
「!? ひゃ、ひゃい!」

 関は突然水を向けられてガチガチに緊張している。

「うはは。ひゃいだって。ひゃい」

 もしゃもしゃ、とさくらは関の頭を大型犬を撫でるみたいに撫でたかと思うと突然がっつり口にキスして「ばいばーい!」と去った。遠くでももちゃんが姉を叱っている声がする。

 関はその場に崩れ落ちた。

「女狐が。……大丈夫か、関」
「わかんない、なんかすごかった……ありがとうございます」

 関道永、忘れられないファーストキスであった。
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