陰が日向に変わる時
美春の仕事は、ほぼ掃除だった。だが、その掃除は半端なことは許されない。埃一つ残してはいけないのだ。広い屋敷の掃除は一日がかりだった。
途中、使いを頼まれるとその分労働時間は伸びる。

古城家の使用人は、全員古城の経営する会社の社員として雇用されている。
もちろん美春も社員だ。毎月支払われる給料は手取り17万円、そのうち16万円が返済に充てられ、1万円だけが手元に残ることになっている。一年働いて192万円、ざっと計算しても52年は働かなければならない。

もしかして、平田さんも借金返済のために若い頃からここで働いていたのだろうか? そしてようやく終わったのかな?
だとしたら、平田さんの人生ってなんだったのだろう……

そんなことを考えていたら、平田さんが美春の考えを察したのか、

「私もあなたと同じよ。私は5,000万、毎月10万、42年よ。ようやく終わる。やっと自分の人生を誰にも拘束されることなく生きていける」

そう言ってフッと笑った。

美春は平田に自分の姿を重ねた。52年働いて、この家を出る時は67歳。

私の人生っていったいなんなの……

自由の効かない先の長い人生を目の当たりにし、途方に暮れるしかなかった。
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