陰が日向に変わる時
使用人専用の食堂で食事を済ませ、平田と共に部屋に戻った。
平田と別れる前に確認しておきたいことがある。

「平田さん」

「何?」

「平田さんの部屋も、中からかける鍵はついてないんですか?」

「鍵? あるわよ……あぁ、あなたは若いから使い方がわからないのね。ちょっとこっちにきてごらんなさい」

美春は平田の部屋に入るよう促された。
平田の部屋にも同じような長い棒がある。平田はその棒を手に取ると、引き戸を閉めその棒をつっかえ棒のように斜めに挟んだ。

「ほら、これで開かないでしょ」

「なるほど! これが鍵の代わりなんですね」

「そういうこと」

「教えてくださりありがとうございました」

「どういたしまして。あぁそうだ、お風呂はシャワー室が男女で分かれてるから、空いている時に使うといいわ」

「わかりました。ありがとうございます」

美春は部屋に戻り一人になると、畳にへたり込んだ。
自然に涙が溢れてくる。拭っても拭っても止まらない。その夜はずっと涙が止まらなかった。
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