陰が日向に変わる時
Ⅲ.
図書館に通い始めてもうすぐ半年になる。この秘密基地は、今のところ誰にも知られてはいない。
この日も美春は、開館時間から図書館のテーブル席に座り本を読んでいた。

「ここ、座ってもいいかな?」

唐突に声をかけられ顔を上げると、長身の男性が爽やかな笑顔を浮かべていた。

「どうぞ」

美しい顔立ちの男性に見つめられ、心臓が激しく脈打つ。美春はすぐに視線を本に戻した。

凄く綺麗な顔してる。どうしよう、ドキドキする。

「いつもこの席にいるよね」

「え?」

美春は再度ゆっくりと顔を上げた。

「土曜日、必ず来てるよね」

「は、はい……」

「俺、 青井秀和(あおいひでかず)。T高校2年」

T高校といえば、国立大附属の中高一貫校で、トップクラスの難関大学合格率を誇る男子校だ。

「私は 能瀬美春です。高校には行ってません。もし、通っていたなら1年生です。古城家で家政婦をしています」

別に隠すこともないので、正直に自己紹介をした。

「家政婦?」

「はい、住み込みで」

「高校には行かずに?」

「はい、事情がありまして」

「そっか……」

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