陰が日向に変わる時
その日から毎週土曜日、二人は一緒に過ごすようになった。図書館デートだ。
美春は好きな本や、雑誌を読み、秀和はそんな美春をデッサンする。

美春にとっても秀和にとってもとてもかけがえのない時間だった。気がつけば、「カズくん」「美春」そう呼び合うようになっていた。

古城家でどんなにこき使われようと、土曜日が待っていると思えば耐えることができた。


ある日、麗果が学校から帰るや否や、マッサージをしろと言ってきた。クッキーを焼いてこいとのことなので、料理長に許可をもらいチョコチップクッキーを作った。紅茶と一緒にワゴンに乗せて母屋のリビングに運び、ドアをノックしようとしたその時、室内から麗果と時貞の会話が聞こえてきた。

「パパ、ホントありがとう。私の欲しいものは必ずプレゼントしてくれるから大好き」

「麗果の喜ぶ顔がパパにとってのご褒美なんだ。お前が欲しいものは何でも手に入れてやるさ。まぁ、美春が欲しいって言った時には驚いたが」

「だって、目障りだったんだもん。美人で頭が良くて優しくて、頼れる生徒会長だってぇ。みんなにチヤホヤされて、ホント目障り。チヤホヤされるのは私だけで十分でしょう。どうしよっかなぁって考えて、奴隷にしちゃえっ!て、すっごくいいこと思いついちゃった。こんなにすんなり手に入るなんて思わなかったなぁ。良い子ちゃんのふりして近寄ったらすぐ懐いて勘違いするし、何でも言うこときくペットみたい。生涯飼い殺してやらなきゃ」

「アハハハハッ、ペットか、確かにな」


なにそれ……

美春は絶句した。

借金返済のためだとか何とか言って、真の目的は私を手に入れたかったってこと? ペットとして?

悔しさや虚しさといった、あらゆる負の感情に押しつぶされ、息ができない。けれど、美春は必死に呼吸を整えた。
明日は土曜日、秀和に会えるのだ。
もし、秀和がいなければどんな行動をとっていたかわからない。想像するだけでも恐ろしい。

美春は一刻も早く秀和に会いたかった。
リビングに入ると、秀和のことだけを考えながら、鬼畜親子の世話をした。
< 21 / 55 >

この作品をシェア

pagetop