陰が日向に変わる時
「美春、訊きたいことがある」

秀和は美春の目を見据えた。

「古城家に入る時、契約書とか、何か書類みたいなものにはサインした?」

「ううん、してない。そういう書類は見たこともないよ」

「じゃあ、美春は書面では何もやり取りをしていないってことだよね」

「うん」

「未成年だから、できなかったってことか……」

秀和が独り言のように呟いた。

「どうしたの?」

「美春、成人を迎えた時、もしかしたら親の連帯保証人になれって書類を渡されるかもしれない。でも、絶対にサインしちゃダメだ。いいかい、絶対、だよ。たとえ、家族が苦しむことになる、そう脅されたとしても、絶対にしちゃダメだ。美春のお父さんは連帯保証人になっていたから、借金を背負わされたんだろう。連帯保証人っていうのはね、単なる保証人とは違って、請求されたら支払いを拒否することができない。逃げられないんだ。だから、絶対サインはするな」

「わかった」

「それから、役所に行って印鑑を登録して印鑑証明取ってこいって言われても、絶対登録しちゃダメだ。古城家にいる君の今の状況では、全く必要ないものだからだ。もし、証明書が必要なんだ、そう言ってきた人物がいたら、その人物は確実に君を不利に、いや、陥れようと考えている。サインも、印鑑登録も、強要を強いればそれは犯罪だ。美春、いいね?」

美春は力強く頷いた。

すると、それまで険しかった秀和の表情がふわりと柔らかいものに変わった。

「そろそろ中に入ろうか」

「うん」

秀和に抱きしめられ、話を聞いてもらい、アドバイスまでしてもらった。

私、カズくんに生かされているようなもんだな……

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