陰が日向に変わる時
「私、雑誌コーナー行ってくるね。カズくん、先に座ってて」

館内に入った美春は、秀和にそう告げると雑誌コーナーへと急いだ。

今週は美春の好きなファッション雑誌が発売された。図書館では雑誌の貸出はしないので、新刊コーナーに並べられているはずだ。

「あった」

新刊のファッション雑誌を手に取ると、秀和がいるテーブル席へ急いだ。

「美春はその雑誌好きだよね」

「うん、私、ファッションに携わる仕事がしたかったの。雑誌に載ってる服とか小物とか、バッグとか、自分が身につけてるところをを想像したりするのが好き」

「美春は、何を身につけても似合うと思う。どんなモデルよりもきっと」

「カズくん、お世辞上手だね」

「事実を言ってるだけだけど」

「うふふっ、ありがとう」

「冗談だと思ってるな? いつかきっと証明してやるから」

「え?」

「何でもない。ほら、雑誌早く読まないと」

「そうだね、早く読んで次の人に回さなきゃ」

証明してやるってなんだろう?
よくわからないけど、嬉しいな。

つい先程までの沈んだ気持ちはどこへやら、心は軽やかに踊っている。
秀和の顔を見て微笑むと、美春は雑誌を広げ、じっくり見ながらページを捲った。

美春のその姿を、秀和は愛しい眼差しで見つめながら描いていく。

とても穏やかな時間だ。

でも、そんな穏やかで愛しい時間は、あっという間に終わってしまうのだ。
< 24 / 55 >

この作品をシェア

pagetop