陰が日向に変わる時
「今日は泣いてしまってごめんなさい。抱きしめてくれて凄く嬉しかった」

「美春、俺の前では我慢しなくていいんだからな」

「うん、ありがとう。また来週ね」

「気をつけて帰るんだぞ」

「うん、カズくんもね」

「あっ」

美春が足を踏み出したその時、秀和が美春を呼び止めるように声を発した。

「どうしたの?」

「あのさぁ、今度、コンテストがあるんだけど、君を描きたいって思ってる。モデルになって欲しいんだ。今は誰にも見せないからって君を描いているけど、やっぱり、描きたいって頭に浮かぶのは美春なんだ。言っておくけど、ヌードではないから」

美春はクスッと笑った。確かに、ヌードは無理だが、秀和の役に立てるのならモデルくらいお安い御用だ。それに、絵が仕上がるまでは確実に会えるということだから。

「うん、いいよ」

「よかった。ありがとう」


土曜日は必ずやってくる。
どんなに理不尽な扱いを受けようとも、当たり散らす麗果を前にしても、その先には秀和との時間が待っているのだと思えば耐えることができた。


新学期を迎え、秀和は高校3年生になった。麗果も高2になったわけだが、登校初日の朝、美春は相変わらずの仕打ちを受けた。

" 靴が汚れている"

いちゃもんをつけ、美春に靴を磨かせる。

麗果の姿が見えなくなると、美春は大きく溜息をつき、飽きもせず、本当によくやるなと、内心では呆れ返っていたのだった。
< 25 / 55 >

この作品をシェア

pagetop