陰が日向に変わる時
「もう、会えないってこと……だよね……」

「しばらくは」

「しばらくってことは、また会えるの?」

「当たり前だろ!」

「もう一生会えないかと思った」

「そんなの俺が耐えられない」

秀和が寂しげに笑う。

「コンテストに美春の絵を出しただろう」

「うん」

「そのコンテストの大賞はアート留学が確約されたものだったんだ」

「えっ! カズくん大賞取ったの?」

秀和はゆっくりとかぶりを振った。

「悔しいけど大賞は逃した。でも、審査員の一人で、世界的にも有名なデザイナーが声をかけてくれたんだ。うちで学べって。彼はデザイン学校も創設していて、そこで学ぶことになった。若手デザイナーを何人も排出してる結構有名な学校なんだ。俺、今まで黙ってたけど、ずっとデザイナーになりたいって思ってたんだよね」

「デザイナーって、ファッションデザイナー?」

「そう。俺の母親、モデルやってるんだけど」

「えっ! ちょ、ちょっと待って、モデルさん⁉︎」

「あぁ」

「そ、そうなんだ」

母親がモデルだという事実にかなり驚いたが、秀和は別に特別なことじゃない、と言わんばかりに話を続けた。

「でもさ、めちゃくちゃ朝弱くて、寝起きなんか髪爆発して凄いんだよ」

秀和が爆発の様子を動作でやってくれたのだが、本当に爆発しているのだろうなと想像できてしまい、おかしくなって笑ってしまった。

「凄そうだね」

「ホント、凄いよ。でも、そんな母親だけど、衣装を着て、人前に出ると全くの別人になるんだ。ランウェイだったり、カメラの前だったりでは堂々としてて、俺が言うのもなんだけど、人を魅了するんだ。衣装は人を変える。衣装だけじゃない、普段着る服も、その服によって気分も変わる。ポジティブにだってなれる。俺も、そんな服をデザインしたいって思ったんだ。
でも、デザイナーで成功する人はほんの一握り。俺なんか絶対無理だって、勝手に諦めて、せっかくT高に進学したんだから、世の中のレールに乗っかって、父親のようにエリート街道も悪くないかなぁって、人生舐めてたんだ」

「お父さん、お仕事何してるの?」

「外交官だ」

「そ、そうなんだ、凄いね」

冗談抜きでエリートだ。
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