陰が日向に変わる時
「そんな時さ、美春と出会った。最初は、とっても綺麗な子がいるなって遠目で見てるだけだったんだけど、毎週土曜に同じところに座って本読んでて、いつのまにか、君に会うために来るようになってた。そして、俺の中で君のイメージを勝手に構築していった」

「私、どんなイメージだったの?」

「育ちが良くて、お嬢様学校に通って、芯が強くて、曲がったことが嫌いで、冷たく見えるけど本当は優しくて……まぁ、いろいろ」

「ごめんね、イメージぶち壊しちゃった」

「ぶち壊すか……良い意味でぶち壊されたかも」

「え?」

「人生イージーモードなんじゃないかって思ってたけど全然違った」

「かなりハードモードでびっくりしたでしょ?」

「うん、流石にね。中卒で、親の借金を返すために住み込みで働いてるなんて、いつの時代の話だよってホント驚いた。俺がなんの不自由もなく暮らしている中、拘束されて自由もない、そんな生活を送っていただなんてショックだった。親の跡を継がなきゃならないわけでもなく、進む道は好きなように決めることができるのに、俺、何やってんだろうなって、みぞおちを一発殴られたみたいだった。で、目が覚めたってわけ。やる前から諦めて、それこそ人生舐めてるよなって…… 君が教えてくれた。美春に会えたから、チャンスを掴むことができた。ありがとう、美春。俺、必ず会いに来るから。一人前になって、君を迎えに来るから、待っててほしい。いつになるかはわからないけど」

美春は秀和の手を取り、聡明で、綺麗な目を見つめた。

「カズくんなら、きっと素敵なデザイナーさんになる。会えなくなるのは辛いけど、でも、私は応援する。カズくん頑張ってね。私はここにいるから」

秀和は、美春の手を力強く握り返し、深く頷いた。

< 28 / 55 >

この作品をシェア

pagetop