陰が日向に変わる時
月日は流れ、古城家での使用人生活も10年と5ヶ月が過ぎた。
図書館に行く前に実家に寄ると、両親から見合い写真を渡された。

「区議会議員の息子さんでね、同い年らしいけど美春知ってる?」

同じ小学校に通っていたのをぼんやりとは覚えている。

「美春のことが好きだったみたいよ。まだ独身ならお見合いさせて欲しいって申し出があったの。とっても優しそうだし、どう?」

「どう? って、うち、借金抱えてるんだよ」

「その事なんだけど、肩代わりしてくれるんですって」

「肩代わり?」

「結婚したら、美春の代わりに全部返してくださるんですって」

「は?」

美春は耳を疑った。

美春の代わりに全部返してくれる?
私の代わり?
どうして私の借金みたいになってるの?
おかしいよね!

「しない」

「え?」

「しないって言ったの」

「どうして? 凄く良いお話なのに」

「良い話? それ、お母さんたちにとってってことでしょう? ねぇ、借金って、誰の借金? お父さんのだよね? お父さんもお母さんも、もちろん返済してるんだよね? まさか、私だけじゃないよね? 弟たちももうすぐ中学卒業だし、高校行かずに返済の手伝いするよね?」

「それは……」

「ねぇ、知ってる? 親の借金を子が払う義務はないんだよ」

法律の勉強で得た知識だ。

「そうね、美春に甘えすぎてたわ、ごめんなさい。でも、お父さんもお母さんもどうすれば良いの? 美春が家政婦をやってるから無利息でいいってことなのよ。利息まで払わなきゃいけなくなったら生きていけないでしょう」 

口ではごめんと言いながら、でも、と言い訳をする。
頭がくらくらして気分が悪くなってきた。

「自分たちは普通の暮らしをしながら生きていきたい。だから、私に古城家で飼い殺されるか、見合い相手と結婚しろって? バカみたい、ホントバカみたい! それから言っておくけど、家政婦じゃなくて使用人、奴隷だからねっ!!」

美春は家を飛び出した。

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