陰が日向に変わる時
Ⅴ.
結局、自分たちが良ければ、娘はどうなっても構わないって思考だったんだ。
何のために10年以上もあの家でこき使われてきたんだろう。

絶望感に苛まれながら、いるはずのない秀和を求めて、美春は図書館まで歩いた。


ここのところ、静かな部屋を使う方が多かったが、今日はいつものテーブル席に座ることにした。
久しぶりにファッション誌のページを捲る。

カズくん、頑張ってるかなぁ……
どうしよう、無性に会いたい。会って話を聞いてもらいたい。抱きしめてもらいたい。

会いたいよ、カズくん……

雑誌に視線を落としたまま心の中で呟いた。


「ここ、座ってもいいかな?」

あぁ、想いが強すぎて幻聴まで生じるようになってしまった。
とても心地よい声音だ。

「美春」

あぁ、名前まで聞こえるなんて、私、相当参ってるのかな……

「美春」

…… え?

美春はゆっくり顔を上げた。

目の前には優しく微笑む、愛しい人の顔があった。

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