陰が日向に変わる時
「カズ、くん……」

「ただいま、美春」

ダークネイビーのスーツを完璧に着こなした秀和が、手を伸ばせば届くところにいる。

「お帰りなさい…… 夢、じゃないよね?」

「現実だよ。待たせてごめん」

美春はかぶりを振る、何度も何度も。

「美春、外で話そうか」

秀和は美春の手を取り、枝垂れ桜の下へ向かった。
ベンチの前に来ると、いつものようにハンカチを広げ、美春を座らせる。

「ホントにカズくんなんだね」

「忘れられてたらどうしようって思ったよ。緊張しながら声をかけた」

「忘れるわけないでしょ! 会いたかった。ずっと会いたかった。ずっとずっと会いたかった」

「俺も会いたかった」

「カズくん、凄く大人になってる。ロンドンの匂いがする。嗅いだことないけど」

「何だよ、そのロンドンの匂いって」

秀和がプッと吹き出し、目尻を下げた。

「やっぱ美春は美春だった」

「うふふっ、何それ」

秀和の優しい笑みが胸に沁みる。

「素敵な男性って言いたかったの。イギリスは紳士の国でしょう?」

「ありがとう、美春。でも、俺、ニューヨーク在住だから」

「在住ってことは、帰っちゃうってことだよね……」

「そうだね。でも、一人では帰らないつもり」

「え?」

「美春を連れて行く」

「……え? ……ん?……えぇぇぇっ!!!」

「凄い驚きようだね」

「そ、そりゃあ驚くよ。カズくん、私の状況知ってるでしょう?」

「もちろん」

「だったら……」

秀和は美春の手を取り、包み込むように握りしめた。

「美春、俺、君を迎えに来るって言っただろう。あんな家に置いて帰るつもりはないよ。これからは俺の傍で生きて欲しい。今日、これから美春の実家に行って、君との結婚を認めてもらう。その後、古城の家に行って全てかたをつける。美春、俺について来てくれるか?」

「もちろんついて行きたいよ、でもそんなことできるの?」

「大丈夫、助っ人呼んでるから」

その時だった。

「お取り込み中のところすまないな」

サイドから男性の少々低めの声が聞こえた。
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