陰が日向に変わる時
ダークグレーのスーツに身を包んだ長身の男性が、こちらに視線を向けている。切れ長の目が特徴的な、秀和とはまた違った端正な顔立ちだ。

柊悟(しゅうご)! 早かったな」

「そんなことはない。時間通りだ」

「美春、紹介するよ。俺の中高の同級生で、弁護士の桐山柊悟(きりやましゅうご)だ」

中高の同級生ということは、彼も優秀なのだろう。しかも弁護士だ。
ふと、左手薬指に目が留まった。結婚指輪が存在を主張している。

「初めまして、能瀬美春と申します」

「初めまして、桐山法律事務所で弁護士をしております桐山です」

「桐山法律事務所ってことは……」

「後継者だ。桐山法律事務所は柊悟の親父さんが代表を務めているんだ。負け知らずの最強弁護士事務所なんだよ」

「それは大袈裟だ」

負け知らずなんて凄い!

「どうして弁護士さんがここに?」

「君に会いたくてね」

美春に近づき、射抜くような鋭い眼差しを向けた。
視線を逸らすこともできず、見つめ合う形になってしまっている。

「おい、柊悟、近づき過ぎだ。美紗都さんに言いつけるぞ」

「おや? 秀和くん、嫉妬ですか?」

眼光からは鋭さが消え、柔和な表情に変わった。

秀和が声をかけなければ、呼吸できないほどの圧と鋭さで、その場から動くこともできなかっただろう。

" 負け知らず" なんとなくわかるような気がする。

「ヒデ、お前の愛しい女性(ひと)は、俺から目を逸さなかったぞ。頼もしいな」

え? 正確には逸らすことができなかった、なんだけど……

「ヒデが惚れたのわかる気がする。……美春さん」

「はい」  

「そろそろ自由になろうか」
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