陰が日向に変わる時
「自由……」

「そう、自由だ。全てヒデから聞いている。今まで良く頑張ったね。君は、ヒデを信じていればいい。決してヒデの手を離すなよ」

美春が秀和の顔を見上げると、秀和は深く頷いた。

「美春さん、突然で申し訳ないないけど、今日、あの家を出ることはできるかな?」

「はい、荷物は数着の服しかないので、出ようと思えばいつでも出れます。すぐ出れます」

「数着の服しかない⁉︎ 本当に荷物はそれだけなのか? 10年以上も住んでいるんだ。なのに、荷物はそれだけ?」

「はい、部屋に何か置いていても、捨てられるだけですから。古城の家に入って、実家から持ってきた好きな雑誌や、毎月手渡される1万円の生活費で買った本を全て捨てられた時、何も持たないようにしようって決めたんです」

「今でも手渡される金額は変わらない?」

「はい」

「酷いな……想像以上だ」

秀和と柊悟が視線を重ね、頷いた。

「美春、まずは退職願を書こうか。退職希望日は2週間後の日付だ」

館内に入り、柊悟が用意していた用紙に退職願を記入し、茶封筒に収めた。

「美春さん、住所と本籍は?」

「両方実家です」

「了解、次はこっちだ」

柊悟はそう言って婚姻届を広げた。
そこには既に秀和の著名がある。秀和に視線をやると、柔和な笑みを浮かべ頷いた。
丁寧に、噛み締めるように著名する。

「よし、これは俺が預かる」

「すまないな、柊悟」

「何言ってんだ。俺はお前の顧問弁護士だ。報酬はがっぽりもらうからな」

「わかってるよ」

「俺は駅前のカフェで待っている。全部終わらせてこい」

「行ってくるよ」
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