陰が日向に変わる時
「改めまして、青井秀和と申します。この度は、美春さんと結婚いたしますことをご報告に参りました。ですので、美春さんには古城の家を出てもらいます」

「結婚⁉︎ 古城の家を出る⁉︎」

父親が驚きの声を上げる。

「はい、美春さんは僕の妻になる女性です。僕は海外に住んでいますので、一緒に来てもらいます」

「そ、そんないきなり結婚だなんて」

母親は突然慌て始めた。そしてポロリと口を滑らす。

「返済が」

もちろん、秀和は聞き逃さなかった。

「借金のことですよね? それは美春さんには関係ありません。ご両親が返すべきものです。ですが、美春さんは自分を犠牲にして返し続けてきた。あなた方は、これまでいくらか返済されましたか?」

二人とも黙り込んでいる。 

「親は、子を守るものではないのですか? なのにあなた方は、子どもである美春さんに守られている。僕は守りますよ、美春さんを。美春さんが笑顔でいてくれるように、僕が全力で守ります」

秀和の口調は穏やかだが、有無を言わせぬ圧を放っていた。
そして静かに一枚の名刺をテーブルの上に置いた。
柊悟の名刺だ。

「彼は僕の顧問弁護士です。これからの返済について助力してくれるはずですので、連絡されてみてください。僕ができることはここまでです。あなた方が路頭に迷う姿を美春さんは望んではいない。それは、あなた方が一番良くわかっているはずだ。それでは僕たちは失礼します。美春、行こう」

「はい」

美春は差し出された秀和の手を握った。

「お父さん、お母さん、産んでくれてありがとう」

美春は秀和と共に生まれた能瀬家をあとにした。
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