陰が日向に変わる時
「美春! 帰ってたの?」

「今帰ってきた。お客さん?」

高級そうなスーツを纏った40代くらいの男性がソファーに腰掛け、その後ろにはメガネをかけた同年齢と思われるスーツ姿の男性が姿勢を正し立っていた。
テーブルを挟んだ向かいには、両親が正座をしている。

「こんにちは、君が美春さんだね?」

ソファーに腰掛けている男性が美春に笑顔を向けた。
だが、その風貌は、身じろぎもできないほどの圧を醸し出している。

「はい」

「私は古城時貞(こじょうときさだ)といいます」

古城? 

「……あっ! 古城麗果さんのお父さんですか?」

「そうだよ。初めまして」

「初めまして」

「君のことは娘の麗果から聞いているよ。とっても素敵な同級生だと」

「え⁉︎」

確かに麗果とは同じ中学に通う同学年だ。だが、同じクラスになったことはない。言葉を交わした記憶もない。
ただ、美春が一方的に知っているだけだと思っていた。

この地域一帯で古城家といえば、不動産をいくつも所有しており、知らない人がいなほど有名な資産家だ。もちろん美春も知っている。その娘である麗果のことも、中学に入学してからすぐに知った。
美春の通う中学校は、三つの小学校の生徒が入学してくる。
麗果は美春とは違う小学校だったが、古城家は有名なので必然に知ることとなったのだ。

ただ、父親は公に姿を見せることが少なく、美春がはっきりと顔を見たのはこの日が初めてだった。
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