陰が日向に変わる時
「カズくん」

「ん?」

「私、自由になったの?」

「あぁ、自由だ」

「もうあの家に戻らなくていいんだよね」

「あぁ、今日からは俺と一緒だ」

「なんだか夢を見ているみたい」

「夢じゃない、現実だ。……美春」

「何?」

「手、繋いでいいか?」

「う、うん」

差し出された秀和の手を取ると、秀和は指を絡めしっかりと握り、互いに微笑み合った。


そして、柊悟との待ち合わせ場所であるカフェへ向かった。

店のドアを開け店内を見渡すと、奥のテーブル席で柊悟はコーヒーカップを手にしていた。
その横には女性が姿勢良く腰掛けている。柊悟と何やら話をしているようだ。
透き通るような肌に、艶やかな栗色の緩やかなウェーブヘア、後ろ姿でも美人だということがわかる。

柊悟がこちらに気づき軽く手を上げると、女性もこちらを向いた。想像通りの透明感溢れる美しい顔立ちだ。優雅に会釈する姿は品があり、思わず見惚れてしまった。

「よう、終わったか?」

「終わったよ。美紗都さん、今日は俺たちのために時間を作ってくれてありがとう」

「こちらこそ、二人の門出のお手伝いをできるなんて、とっても嬉しい」

「美春、紹介するよ。彼女は柊悟の奥さんの美紗都さん」

「初めまして、桐山美紗都です」

「能瀬美春です、よろしくお願いします」

「まあ座れよ。何か飲むか?」

「そうだな、美春、何がいい?」

「私は、カズくんと同じもので」

「じゃあコーヒーでいいかな?」

美春が頷くと、アイコンタクトで店員を呼びコーヒーを注文した。その姿がスマートで思わずドキッとしてしまった。
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