陰が日向に変わる時
「ほら、サインしといたぞ」

柊悟が婚姻届を秀和に手渡す。 

保証人の欄には、柊悟と美紗都の名前が書かれていた。

「ありがとう柊悟、美紗都さん」

「ありがとうございます」

美春は深く頭を下げた。

「美春さん、頭を上げて。私、とっても嬉しいの」

「え?」

「柊悟さんの親友、しかも有名デザイナーさんの婚姻の保証人になれるなんて光栄だもの。それに、ワールドコレクションのチケットまでプレゼントしてもらっちゃって、お礼を言うのはこちらの方よ」

「ワールドコレクションって…… あのワールドコレクションですか?」

「そうよ」

" World Collection" 有名デザイナーが集う世界的ファッションショーだ。毎年開催されるこのショーは各国で開催され、今年は日本で開催されるのだと、図書館で見たファッション誌に情報が載っていた。

「もしかして、カズくん……」

「俺もデザイナーとして参加する」

驚きのあまり、言葉を失ってしまった。

「ヒデは今や引っ張りだこの人気デザイナーなんだ。うじうじ悩んでたヒデの背中を押したのは美春さん、貴女なんだよ」

「美春さんは秀和さんにとって幸運の女神だものね」

「さあ、これから忙しくなるぞ。まずは婚姻届を提出して、受理されたら美春さんのパスポート申請だ。すぐにコレクションもやって来る。ニューヨークに発つまで時間も限られているからな。頑張れよ、お二人さん。あぁ、そうだ。能瀬さんから早速連絡があったぞ」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「美春さんが謝る必要はない。これはビジネスだ」

「両親はちゃんと返済できますでしょうか?」

「大丈夫だ。桐山法律事務所(うち)にはその道のプロが揃っている。自宅と土地は手放すことになるだろうが、美春さんがこれまで頑張って返済してきた分を差し引けば、十分なんとかなる金額だ」

桐山の言葉を聞いて、美春は安堵した。

「桐山さん、本当にありがとうございます」

「俺は依頼に答えているだけだ。例を言うならヒデに言ってやってくれ」

美春は秀和の目を見つめ、

「ありがとう、カズくん」

深く頭を下げた。

「婚約者の悩みを解決するのは当たり前のことだろう。だから気にするな」

秀和の深い愛情が心にじわりと広がった。
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