陰が日向に変わる時
「美春さん、君は勉強もできるし、スポーツも万能で、生徒会長だそうだね? いつもいつも娘が話して聞かせるもんだから、なんだか初対面とは思えないな」

「はぁ……」

それまで美春に向けられていた笑顔が真顔に変わったかと思うと、時貞が父親に目配せした。

「み、美春……」

「何?」

「この家を手放さなければならなくなった」

「え?」

「もうここには住めないんだ」

「住めない? どういうこと?」

父親に問うと目を逸らされ、次は母親に視線を移した。
母親も何か言い淀んでいるようだ。

「そうですよね、自分たちからは言い辛いかもしれませんね。ならば私が申し上げましょう」

時貞の視線がもう一度美春に向けられた。

「君のお父さんは多額の借金を背負ってしまったんだよ」

……借金? この人は今借金と言った?

「お父さんが直接借金をしたわけではないが、知人の連帯保証人になっていたせいで、その借金を肩代わりしなければならなくなったんだ」

「かた、がわり?」

「そうだ」

「だから家を売らなければならなくなった、って事?」

「そうだ」

「え……借金ってどれくらい?」

「1億だ」

「1億?」

中学生の美春には1億と言われても、凄い金額だと思うだけで、すぐにはピンとこなかった。

美春の父親は町工場で働いて収入は決して多くない。母親もスーパーのフルタイムパート勤めだ。
祖父が残してくれた家と土地が能瀬家にとっては一番の財産だというのは常々言われているので承知している。
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