陰が日向に変わる時
「そんなお金うちにあるの?」

無いだろうとは思ってはいるが、敢えて訊いてみた。
案の定両親は何も言わない。

やっぱり無いんだ……

「この家を売りに出して、高く見積もっても5,000万くらいだろうね。上物の価値はほぼゼロだ」

全然足りない……

「そこで、私が返済について提案させてもらったんだよ」

「その提案に私が関係しているんですか?」

「そういうことだ。聞いてくれるかい?」

「はい」

「私が返済のための全額を用意させてもらう。だが、それはあくまで立て替えておくということだ。必ず返してもらわなければならない。その返済方法についでなんだが、美春さん、君が古城家の家政婦として住込みで働いてくれたらどうかと思っている」

「家政婦ですか?」

「そうだ。給料もきちんと発生する。古城家に就職したと思えばいい。その給料から毎月返済してもらう。利息は必要ない。元金だけでいい。金額が大きいだけに返済額もそれなりに多くはなると思うが、寝食付だから生活に困ることはない」

「自分で使えるお金はありますか?」

「もちろん」

「嫌と言ったらどうなりますか?」

「残念だが、この話は無かったことにさせてもらう。能瀬家が路頭に迷うこともあり得るだろうね」

「それは困ります! 小さな双子の弟もいるから……」

「美春さん、娘の麗果は君と一緒に暮らしたいと言っている。君に憧れているそうだよ」

「え?」

「娘は内気な性格だから、君に話しかけたくてもできないと言っていた」

確かに、話しかけられたことはない。
麗果の印象といえば、物静かで、良家のお嬢様といった感じだ。接点もなく、こちらからも話しかけたことはなかった。

「あのぅ、返事はいつまでにすればいいですか?」

「早い方がいいな。今週いっぱい待とう」

「わかりました」

「美春さん、明日、学校で麗果に話しかけてやってはもらえんだろうか」

「はい」

「では私たちは帰るとしよう。田所行くぞ」

「かしこまりました」

彼らは能瀬家をあとにした。
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