陰が日向に変わる時
「美春、ごめんね」

彼らが帰った後、最初に口を開いたのは母親だった。

「こんなことになってしまって、申し訳ない!」

父親が床に額を擦り付けるように謝罪する。

「お父さんとお母さんはどうするつもりなの? どうして欲しいの?」

「それは……」

黙り込む二人。

建前でもいい、お父さんとお母さんがなんとかして返すから、美春は心配するな。
そう言って欲しかった。

なんともいえない虚しさが美春の心を支配する。
結局のところ、能瀬家の生活は美春にかかっているのだ。
美春がノーといえば、確実に能瀬家は路頭に迷うことになる。

そんなこと、させられない。

「私、高校行けるのかな?」

「……」

「無理、だよね…… お給料をもらうんだもん、仕事するんだもんね」

「美春……」

悲愴な二人の顔が胸を抉る。

「明日、麗果さんと話してみて決めるよ。麗果さんが性悪女だったら断っていい? これから一緒に暮らさなきゃいけないんだもん」

「……わかった」

父親が不承不承といった表情で答えた。
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