お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
第一章
終わりと始まり
「悪役令嬢リディア・ルース・グレンジャー!貴方────転生者でしょう!?」
十六歳の春、アントス学園の校舎裏にて────クルンとカールの掛かった茶髪をポニーテールにしている少女が、そう叫んだ。
桜を連想させる淡いピンクの瞳に不満を滲ませ、キッとこちらを睨んでくる彼女はまるで子猫のよう。
華奢で小柄な外見に似合わず、強気なところなんて特に。
『怒っているのに可愛いなんて、不思議ね』と思いつつ、私は小さく首を横に振る。
「いいえ、私は転生者じゃありませんわ」
「嘘よ!だって────ゲームのリディア・ルース・グレンジャーは、こんなに優しくないもの!表情も暗いし!」
ビシッとこちらを指さし、彼女は『本物とかけ離れ過ぎている!』と主張した。
『私は騙されないんだから!』と言わんばかりに目を吊り上げる彼女の前で、私はパッと表情を明るくする。
「まあ!ルーシーさんも、あの乙女ゲームをご存知で?」
「もちろんよ!あれは歴史に残る名作だもの……じゃなくて!やっぱり、貴方転生者じゃない!何で乙女ゲームという単語を知っているのよ!?」
ハッとしたように目を見開く彼女は一歩前へ踏み出し、私の胸元に人差し指を突き立てる。
その際、茶髪と一緒に髪飾り代わりの赤いリボンが揺れた。
挙動も気性も激しい彼女を前に、私はニッコリと微笑む。
「いえいえ、本当に転生者ではありませんよ。私はどちらかと言うと────憑依者ですわ」
そう、私は生まれながらに人生二周目を悟った訳でも、頭を打った拍子に前世の記憶を取り戻した訳でもない。
いつの間にか、他人の身体に入り込んでいたのだ。
────事の発端は十年前に遡る。
十六歳の春、アントス学園の校舎裏にて────クルンとカールの掛かった茶髪をポニーテールにしている少女が、そう叫んだ。
桜を連想させる淡いピンクの瞳に不満を滲ませ、キッとこちらを睨んでくる彼女はまるで子猫のよう。
華奢で小柄な外見に似合わず、強気なところなんて特に。
『怒っているのに可愛いなんて、不思議ね』と思いつつ、私は小さく首を横に振る。
「いいえ、私は転生者じゃありませんわ」
「嘘よ!だって────ゲームのリディア・ルース・グレンジャーは、こんなに優しくないもの!表情も暗いし!」
ビシッとこちらを指さし、彼女は『本物とかけ離れ過ぎている!』と主張した。
『私は騙されないんだから!』と言わんばかりに目を吊り上げる彼女の前で、私はパッと表情を明るくする。
「まあ!ルーシーさんも、あの乙女ゲームをご存知で?」
「もちろんよ!あれは歴史に残る名作だもの……じゃなくて!やっぱり、貴方転生者じゃない!何で乙女ゲームという単語を知っているのよ!?」
ハッとしたように目を見開く彼女は一歩前へ踏み出し、私の胸元に人差し指を突き立てる。
その際、茶髪と一緒に髪飾り代わりの赤いリボンが揺れた。
挙動も気性も激しい彼女を前に、私はニッコリと微笑む。
「いえいえ、本当に転生者ではありませんよ。私はどちらかと言うと────憑依者ですわ」
そう、私は生まれながらに人生二周目を悟った訳でも、頭を打った拍子に前世の記憶を取り戻した訳でもない。
いつの間にか、他人の身体に入り込んでいたのだ。
────事の発端は十年前に遡る。
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